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新国立劇場「シルヴィア」:ビントレー時代の「積み重ね」のかたち

エロスは矢を放った!
シルヴィアはメロメロになった。

エロスは矢を放った!
アミンタはメロメロになった。

ダイアナの攻撃!
アミンタは目が見えなくなった。
それでもアミンタは踊っている。
だがアミンタは倒れた。

オライオンは逃げ出した!
シルヴィアは連れ去られた。

~一幕終了~


…なんてアホなことがつい浮かんできてしまった新国立劇場バレエ、ビントレー版の「シルヴィア」ですが、いや、実に面白かったですよ。
本気で楽しんで見ていました。
もちろん、細かいことをいえばキリがないけど、でもストーリー的には退屈な「シルヴィア」を、ちゃんとドラマにまとめあげていて、登場人物それぞれにも味わいをもたせた楽しい作品だったと思います。
また新シーズンの始まり、そしてビントレー監督最後のシーズンの幕開け作品でもありますが、実にこの新国立劇場バレエ団は、次は何かな、と楽しみに思えるカンパニーになったなぁとも思います。

前置きはともかく、古典の「シルヴィア」はギリシア…というかローマ神話をベースにしたダイアナに仕えるニンフ・シルヴィアと羊飼いアミンタの恋物語。
ビントレー版は現代世界を神話世界にスリップさせるという手法で、このお話をまとめています。

つまりダイアナとオライオンを現代世界では倦怠期の伯爵夫妻とし、シルヴィアが伯爵家の家庭教師に、アミンタが伯爵家の召使いに、そしてエロスは庭師に、という感じ。
冷めきった夫婦を目の当たりにして、いまひとつ恋にのめり込めない家庭教師シルヴィアと、彼女にアタックする召使アミンタ。
そこで庭師たるエロスが一計を案じ、登場人物を神話世界に引き込み、その世界の冒険を経て、2つのカップルは互いの思いを確かめあい、または取り戻す、という筋立てです。

とにかく、庭師でエロスで、さらには海賊の親分までやる吉本さんが、すごくいい味を出してました。
この人、アラジンではランプの精ジーンを、パゴダの王子では道化を踊りましたが、本当に積み重ねが一つひとつ糧になっているなぁ。
特に観客とコミュニケーションを取りながらの立ち回り、舞台と客席との「見えない壁」を吉本さんは難なく取り払う。
「パゴダ」の道化の時以上に、実に自然にやってのけている。
演劇的手法ってのかもしれませんが、バレエにこういうのがあったっていいし、こうしたことをやってのけられるバレエダンサーって、そういないんじゃないだろうか。
でもって海賊に紛争しての片足折り曲げて義足を付けた、不自由な格好であれだけ踊るんだから、大したものです。
吉本オンリーワン。

舞台に戻ると、まずお話は倦怠期の伯爵夫妻の結婚記念日のパーティーから。
家庭教師シルヴィアの小野さんと召使いアミンタの福岡さんはそれぞれ生真面目そうで、とてもキャラにあっている。
気が強そうな湯川伯爵夫人。
そこらじゅうの女の子にちょっかいを出す古川伯爵は、家庭教師にも迫ってる。

伯爵家のパーティーで怪しいオネエなスキンヘッズコンビが持ち出してくるのが、元祖・シルヴィアの世界の衣装ですから、まあここで神話世界へのスリップが暗示されるわけですが、ともかくシルヴィア家庭教師に振られるアミンタ召使いを気の毒に思ったのか、エロス庭師は伯爵家を神話世界に変えてしまいます。

ダイアナとして颯爽と登場してくる湯川さんが、「私がダイアナよ!文句あって!?」といわんばかりに、キラキラした存在感です。
アミンタの古川さん、筋骨隆々で、すんげーたくましい身体してるなぁとびっくり(笑)
切り分けられそうなくらいに、肉にいちいちスジがはいってるわー。

ダイアナもアミンタもシルヴィアも神話世界の衣装ですが、福岡アミンタと吉本エロス庭師は現実世界の服装のまま。
そうか、主人公はアミンタだったのか??
そしてダイアナの沐浴にうっかり迷い込んでしまったアミンタは目潰し状態に。

二幕はシルヴィアとオライオン中心。
なんかシルヴィア、白の衣装から黒の衣装に着替えさせられています。
シルヴィアの白衣装を投げ捨てるオライオンが、なんかイヤーン(//∇//)な暗示的。
でも受け入れないシルヴィアですが、突然にょきっと2人のスキンヘッズが現れるからびっくり。

謎のスキンヘッズが2体現れた!
2人は不思議な踊りを踊った。
シルヴィア絢子も不思議な踊りを踊った。
絢子は転倒した!
観客は一瞬凍り付いた。
だが絢子は持ち直した!
シルヴィア絢子の気迫の踊り!
会心の一撃!!
オライオンはべろんべろんに酔いつぶれた。


この謎のスキンヘッズが福田&八幡の、いわば元気者ゴールデンコンビと申しましょうか。
現代世界では白黒タートルネックにサングラス、神話世界はバッカスの手下みたいな、草冠と、怪しすぎて見応えありましたね(笑)
てか古川さん、思わず先の「マノン」のレスコーを思い出すような、酔っぱらいぶり。
酔いどれ古川(笑)

ともかく。
オライオンのアジトに目潰し状態ママのアミンタが、エロスに伴われて助けに現れますが、「黒の衣装」を恥じるシルヴィアはその場を逃げ出し、アミンタは再びシルヴィアを追い彷徨うことに。

三幕はダイアナとニンフの勇壮な踊りから。
たおやかなニンフですが、パワフルでアマゾネスみたい。
先のオライオンを酔わせたシルヴィアといい、登場する女性は知恵と機転とパワーと美しさ、です。

そのさなか、海賊がダイアナの神殿に女奴隷を売りにくる。
その中になぜかシルヴィアも。
女神に仕えるニンフは純血が基本。
「黒い衣装」を着てしまったシルヴィアは、うっかり戻れば女神の怒りにふれる(らしい)。
あわや、というところでアミンタ王子が現れ、やっと二人は気持ちを確かめあい、海賊もといエロス庭師によって、アミンタの目潰し状態も解かれるわけです。
この時のアミンタのズボンの裾が白くホコリだらけ。
どれほど彷徨ってきたんでしょう。

小野&福岡のグランパドドゥも見応えたっぷりで、特に福岡さん、さすが戦士系&体育会系、というなかにものびのびとした細やかさも感じられて、しかもキレもいい。
小野さんも軽やかで、実にこのペアは息がぴったりです。
この二人もまた、ビントレー時代の最大の発掘であり財産なんだよなぁ…。

クライマックスではシルヴィアを追ってきたオライオンが登場。
ポスターの馬はここで登場するんですね。

ダイアナ怒りの一撃!
オライオンはあっけなく倒れた。

ダイアナの攻撃!
シルヴィアとアミンタは倒れた。

エロスは不思議な魔法を放った。
ドライアイスが立ち込めた……


ということで現代世界へ。
家庭教師と召使いはともかく、なんで伯爵夫婦がよりを戻したのかが今ひとつわかりづらかったのですが(エロスが渡していた魔法のアイテムか?)、まあともかく、めでたしめでたし、なのでした。

突っ込みどころももちろんあるんですが、でも楽しい舞台ってのが、やっぱり何よりです。
今作、このあとはロイヤル・バーミンガムのゲストの日に行きます。
でも、今日のオライオンを見ていたら、マイレンのバージョンも観たくなってしまったわ。
どれだけ濃ゆい演技をしてくれるのか、すごく面白そうですし、キャストによってそれぞれに違う味わいがありそうです。
どうしよう、行こうかなぁ…。
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by kababon_s | 2012-10-27 23:54 | 新国立劇場バレエ