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マラーホフ「ジゼル」:人は一度では解らない

痛い思いをして心から懲り、反省しているつもりでも、実はどこか自分に対して甘えがある。
心底打ちのめされ、ようやっと気づくのが人の性といいますか。
今回のマラーホフの「ジゼル」は、まさにそんなアルブレヒトでした。
ひとえに貴公子マラーホフの演技力の深さといいますか、何度も踊ってすっかり自分のものにしてしまっているゆえの円熟のアルブレヒトといいますか…。

高貴な伯爵・アルブレヒトが村人のなりをして村娘ジゼルのもとに通います。
アルブレヒトは高貴な姫様という婚約者持ち。
ジゼルに対しては本気なのか戯れなのか。
とてつもなく純粋な村娘ジゼルいわゆる身分違いのコイ~とも知らずに、すっかり本気です。
結局ジゼルに恋するヒラリオンがアルブレヒト伯爵の偽り身分を暴露し、ジゼル狂乱。
アルブレヒトの本気なのか戯れなのかわからんいい加減な不誠実さが純な村娘を死に追いやります。

今日のジゼルは吉岡さんでしたが、前回見たドン・キホーテのイタコかと思うようなトランス状態のジプシーを踊った人でした。
いやぁ、狂乱シーンは迫力!
イタコ吉岡、狂乱。ステキ。

で、問題の(?)2幕。
ジゼルの墓の前。
未婚のまま死んだ娘がヴィリという妖精になり夜の墓場をさまよい、男を呪い殺します。
いつも思うんですが、ヒラリオンって特に何も悪いことしていないのにヴィリに殺されてしまうの、気の毒でしょうがないんですが…(T_T)

後悔してジゼルの墓を訪れるアルブレヒト。
一見ジゼルの死に直面して自分の愚かさを悔いているように見えます。
そこへヴィリの群れ。
ヴィリとなったジゼルも現れますが、パドドゥを踊っているのに視線が合いません。
手が触れ合いそうで触れ合わない。
妖精となったジゼルに再び会えて嬉しいわけでも、懺悔するでもない。
アルブレヒトを呪い殺そうとするヴィリ達から、ジゼルは必死にアルブレヒトをかばうのですが、かばわれながらもジゼルが見えているのかいないのかわからないアルブレヒトです。

互いの視線が素敵です。
触れ合いそうでまったくかみ合っていない二人の心。
死んでなお、アルブレヒトを愛して許し、かばおうとするジゼルと、自分が何をしているのか、何をされているのかわかっていないアルブレヒト。
心がジゼルにあるようで、実はない。

結局夜明けとともにヴィリ達も時間切れ。
アルブレヒトの命は助かり、ジゼルも墓に消えていきます。
その時はじめて、アルブレヒトは自分が本当に彼女の純粋な心を踏みにじっていたこと、死に追いやった自分の愚かさに心底気づくわけですね。
ジゼルの墓に花こそ捧に行きましたが、それは彼女への贖罪ではなく、「後悔する自分」に酔う、自分がかわいい甘ちゃん伯爵でしかなかったという、そんな気持ちが最後のシーンでずしーーっと伝わってきます。
後悔役立たず。

いやもう、さすがマラーホフ…。
「貴公子」なだけに、痛々しいですし、愚かな人間の業というか性が目一杯伝わってきました。
いやぁ、さすがマラーホフ…(*^_^*)
明日はルグリ王子のアルブレヒトです。
こちらもまた違った楽しみがありそうで。

by kababon_s | 2008-09-15 23:35 | Ballet