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ルジマトフ「ラスプーチン」:ルジマトフだから客が呼べた

バレエの「ラスプーチン」。
2004年作、日本初公開です。
主演はあのルジマトフ。
ロマノフ王家に興味津々の私的にはこれ以上ないというほど惹かれるテーマで、相当楽しみにはしていたのですが。

正直ぶっちゃけて言いますと。
「ルジマトフでなかったらもう誰も見ないかも……」
本国ロシアではわかりませんが、少なくとも日本ではそんな気がします。
ってーか、ルジマトフのために書いたんだっけか。
ルジマトフ以外では踊れない、と。

何故にか…といえば、やはりキャラクターダンス(民族舞踊)でしょうか。
場面は宮廷と民衆の間を行ったり来たりします。
民衆の場はとにかくロシア民族舞踊のラッシュ。
飛んだり跳ねたり回ったりに加えて、ルジならではの繊細な、狂気と正気を行き来するような怪僧テイストが加わり、そのおかげで結果、見ごたえのある舞台に落としこめた。
…そんな感じです。


お話はロマノフ王家最後の皇帝・ニコライ二世一家の悲劇です。
血友病の皇子の病気を治してくれた「ラスプーチン(放埓)」と名乗る生臭坊主を「友」として宮廷に入れる。
権力を得た坊主は宮廷内をかき回し、皇后の寵愛を得てすき放題するものの、彼をねたみ怪しむ貴族に暗殺される。
彼の死はまたロマノフ王朝、しいては帝政ロシアの終焉へと繋がる――。

登場人物は主役・ラスプーチンに皇帝夫妻、病気の皇子、そして王家を見守る守護天使の5人に絞られています。
これはとても分かりやすいんです。
ここに4人の娘を出したらまた訳分からなくなりそうだ(^_^;)
いたいけな皇子の役を女性ダンサーが踊っているんですね。
かわいい。
守護天使の登場もラスプーチンとの対比としてはとても分かりやすいはずなのですが。

結局作者はあのラスプーチンをどう描きたかったのか、最後まで分かりませんでした。
怪僧?
悪魔?
聖人?
皇后との愛に破れ捨て鉢になった男?

もちろんこの男に明確な答えを与えることはできませんが、それにしても「作者自身がどう描きたかったのか」が見えてこなくて、視点の引っ掛けどころが掴み切れず最後まで悶々としました。

あと音楽。
ロシアン・チャント――ロシア正教音楽てんこ盛りはウレシイ。
民族舞踊音楽も、ジプシーならぬロマニー音楽も大好きなのでタノシイ。
でもなんかエレキギターやシンセサイザーがうるさすぎ。
80年代くらいに見たロシアの娯楽映画みたい。
全体的にただただアップテンポでキンキンうるさくて「ああ、わかったよもういいよ…」と言いたくなるときがしばしばありました。

まあ、まとめると。
ルジマトフゆえに持った舞台。
台本・振り付けはまだまだ練れる。
音楽イマイチ。
ってーか、台本。
どうしたって明るい話になんてなりっこないんだから、ハンパなエンタメ性なんて出さなくたっていいよ、と。
それより天使と悪魔・ラスプーチンの陵辱パドドゥを徹底的にやるとか、エンタメにするならもっともっと下衆でもよかったんじゃないかと思いました(^_^;)

この舞台を見て。
思い出すのはペレストロイカ直後、日本で公演されたマールイ劇場の芝居「ニコライ二世」。
これだって明るい話じゃない。
でも芝居が跳ねた後の静かな拍手が印象的でした。
役者への、同時に皇帝一家に対する、また「その時代とはなんだったのか」と思わせられるようなもので、いまでもあの拍手の音は忘れられません。
そんなところをまた期待して行ったのですが。
私の期待が大きすぎたのかな?
ルジマトフが見られれば満足、って人には楽しかったのでしょうか?

by kababon_s | 2006-06-20 23:37 | Ballet