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牧阿佐美バレヱ団「三銃士」:「三銃士」から「三銃士」へと思いを馳せる

3月8日、9日と牧阿佐美バレヱ団「三銃士」を鑑賞。
9日はダンサーさんによるサイン会があり、当日のキャストだけでなく、Wキャストの方々も含めてずらりと登場するというファンサービスっぷり。
プログラムには「当たり」が入っていて、8日主演のプトロフのサイン入りポスターがもらえるというお楽しみ会もあり。
ダンサーさんたちは一舞台踊った後で相当お疲れとは思うのですが、でもこういうサービスはやっぱりうれしいですね。
牧はこの点は一生懸命で、いろいろ頭捻って工夫している感があって評価できます。

で、「三銃士」です。
バレエファンとして、また「三銃士」もとい「ダルタニャン物語」のヲタクとしては、本来願ったりかなったりの演目で、実は初演1993年と2010年公演を観ています。
だから「わかっている」(←含みあり)けど、でも「ひょっとしたら今回は…」と行ってしまうのであります。

はじめに言うと、「三銃士」は登場する男性キャラが多く、女性も高貴、娘、悪女と揃っている。
昨今男の子ダンサーの躍進著しいバレエ界を思うと、複数の男の子が楽しんで演じられる、男の子たちにチャンスを与えられるいい演目だと思うのです。
しかも田舎者のダルタニャンだからスラリとしたノーブルなイケメンより「小さくても元気があってよろしい」という男の子の方が断然似合うのです。
ノーブルなキャラもいるし、本来原作は非常にキャラ立ちまくりです。
実に男の子がよりどりみどりで楽しい作品だと思うのです。

というわけで、前置きが長くなりましたが、牧で上演している「三銃士」はアンドレイ・プロコフスキーの振り付け。
ストーリー的には全3部作「ダルタニャン物語」の第1部「三銃士」の部分のフランス王妃と敵国の英国宰相バッキンガム公爵との恋愛事件をからめた「王妃の首飾り事件だけ」を軸に、ダルタニャンと王妃の侍女コンスタンスの恋愛物語としています。

これは後ほども語りますが、初演時はその「王妃の困った恋愛」の結果起こった顛末、つまり「三銃士」というお話の最後まで上演されていたのですが、いつからかは調べないとわからないのですが、今ではばっさりとカットされ、首飾りを取戻してめでたしめでたし、というバージョンとなっています。
これ、大事なので覚えておいてください。

お話自体は非常にスピーディーにサクサク進みます。
見事なくらいいいリズムで進みますね。
舞台転換なんかも気が利いている。
例えば三銃士と親衛隊のチャンバラで転がった死体(?)を町の人かお城番が「やれやれ」と掃除しながら庭をセットして、王と王妃をお迎えするとか、あるいは三銃士と親衛隊の酒場のチャンバラシーンは、酒場の客や店主が「きゃー」「うわー!」「また始まったー!」と慌てながらテーブルや酒樽なんかを撤去していく。
幕を下ろしたり、変な間を空けずにあのめまぐるしい舞台シーンを変えていくのはお見事です。

また冒頭でもいいましたが男性の登場人物も多く、それぞれにヴァリエーションが用意されているから踊り的にも見応えがある。
ダルタニャン、三銃士のパ・ド・トロワにアトス、ポルトス、アラミスのそれぞれのヴァリ、ロシュフォールと親衛隊の群舞、ルイ13世にバッキンガム公爵とそれぞれが踊るのは、(本来なら)キャラ萌にはたまらない。
さらに王と王妃、王妃とバッキンガム公爵、ダルタニャンとコンスタンス、さらには王妃とコンスタンス(!)のパ・ド・ドゥなんかもありで、結構面白い。

何より舞台上で王に王妃、バッキンガム公爵が三角関係で火花を散らしているのをよそに、KYな田舎者ダルタニャンがちゃっかりコンスタンスを口説いていたりとか、真ん中だけを観ていたら大事なところを見落としそうなくらい、芝居要素も濃いのですね。

そういう意味ではドラマティックバレエにも通じる、演技力も多分に必要とされる舞台です。

ただ非常に残念なのは三銃士の3人の衣装が同じ白ということ。
とにかく衣装の色彩が単調で、フランス国王側がほぼオール白で悪役は黒。
ダルタニャンもずっと田舎者らしい茶色のベストならいいのに、途中で三銃士とお揃いになってしまうので、ただでさえ三羽一絡げの三銃士が四羽一絡げになってしまう。
クライマックスはヒロインのコンスタンスさえも、その他女官とお揃いの白ドレス。
踊り手がキャラを極めていれば、同じ白でも浮いてくるのかもしれませんが、それができなければ完全に登場人物が埋没してしまい、没個性になってしまうのです。

そんな状態ですから、踊り手に個性・演技力・キャラへの理解がなかったらもう、とてつもなくつまらない舞台になってしまうわけですね、このプロコフスキー版「三銃士」は。

簡易版小説を読んだり映画を見ただけではキャラにはなれません。
ダンサーがダルタニャンがどういう野望を持っているか、どんな風に田舎で遊んでいたのかとか、ミレディだって何故堕ちたかとか、そいうところまで考えて考えて咀嚼して嚥下して、身体の隅々にまでキャラを叩きこまないと、この舞台は面白くならない。
作中では語られていないけど、アトスだって三銃士のリーダー然としていますが、「お前もう一生アトス山に籠もってていいよ」的ヘタレ坊ちゃまな過去がありますし、アラミスだって「鉄仮面」の首謀者たる未来があるわけで、そうすると色恋系キャラでありつつなにか野望滲ませる胡散臭さがあってもいいわけです。

そういう理解がダンサー全員にあって、舞台の登場人物全てがキャラとして呼吸して一つになって初めて17世紀フランスが登場するわけです。
それぞれが自分のパートだけをお上手に踊っても、ちっとも面白くない。
キレイに踊る「だけ」のバレエほどつまらないものはない。
プロは上手に踊って当たり前で、さらにその先の演技力、表現力が必要なのは言うまでもありません。
心が通じあっていないパ・ド・ドゥの退屈なことったらないわけです。

そういう状態ですから、バレエはよくわからないけど「三銃士」というお話や三銃士のキャラ萌えで「どんなアトスだろう」「どんなアラミスだろう」と見に来たコアな原作ファンが見ると「やっぱバレエってキレイだけど退屈ー」になってしまうわけです。
残念極まりないです。

しかも「後味悪い」とか、多分そんな理由だと思うのですが、このプロコフスキー版「三銃士」は本来の原作の起承転結の転結の部分をばっさりと切り落としてしまっているわけです。
本来「転結」まで持っていくはずのスピードはそのままに、バッサリ「承」で終わるわけですから、お客的にはぽーんと放り出された感じで「え…っ??( ゚д゚)ポカーン」となってしまう。
せめてあんな「お話の復習」じゃなく、王妃が取り戻した首飾りを付けて舞踏会に現れ、王の疑いを晴らし、リシュリューがコンチクショーとなるシーンに持って行けなかったのか。
プロコフスキー氏がこの改訂版に手をいれないまま亡くなられてしまったので、おそらく著作権が発動しているでしょうから、このバージョンは少なくともあと46年はこのままですか?
…そりゃないわ。

とはいえ、お話はアレでも小芝居がしっかり演じられ、演技力もあるバレエダンサーさんたちがキャラになり切った舞台であれば「まあ、これはこれでまとまってたね」ということになると思うのですが、残念ながら今回はそこまでは堪能できませんでした。
本当に、残念としか言いようがないです。

そのダンサーさんですが、8日は元英国ロイヤルバレエのイヴァン・プトロフが、9日は菊地研さんがダルタニャンでした。
どちらもダルタニャンとしてはイケメンすぎで元気いっぱい系でそれぞれ良かったのですが、9日コンスタンス・青山さんがなり切りには遠いものの踊りも美しく安心して見ていられ、また菊地さんとのコンビネーションが良かった分、パ・ド・ドゥも退屈ではなかった。
菊地さんはやっぱり牧では、私は好きですね。

三銃士は8日の組み合わせが良かったです。
アトスの篠宮君は落ち着いたアトス。
彼はちょっと小さめですが、踊りも演技も安定していていいな。
イケメン清瀧千晴君がポルトス…に最初は「??」でしたが、ポルトスの派手好き見えっ張りなオシャレさんをフューチャーしていたのだとわかり納得。
何より彼が一番背が高いわ(笑)

問題は悪女ミレディなんですが、どうしてもバレエのお嬢さまは総じて「オヒメサマ」なのか、全然悪女には見えず小悪魔止まり。
このぶった切りストーリーなら小悪魔ミレディもありなんですが、それにしたってお姫様根性が全然抜けてない。
それでも8日の日高さんは目が笑ってなくて、今まで見たミレディの中では、いいほうだったかもしれません。

というわけで尻切れ感バッサリの「三銃士」。
ホントに冒頭でも言いましたが、男の子の登場人物も多い分、とてもいい演目だと思うだけに、いろいろ残念極まりないです。

また本来「結」まであった作品だし、東宝ミュージカルの「三銃士」も(ミュージカルとバレエは違うとはいえ)アトス&ミレディの過去やラ・ロシェルの戦いなんてエピソードまで入れながら2幕物で「結」まで持っていってるし、バレエでもできないはずないんですが。
「後味悪い」といいましたが、断言しますがそれはやはり原作の読み込み不足で、ちゃんとお話の真意を解釈すれば、「後味悪い」部分もちゃんと意味を持ってきます。
そしてダルタニャンもチートなヒーローではなく、深みのあるキャラクターになるのです。
思えばパリ・オペラ座のエトワール・ガラは1時間程度の学芸会とはいえ、「結」を外さなかったのはさすがでした。
三銃士の本国ならではでしょうか。

言うだけならいくらでも言えるので言ってしまえばね、本当に俺に脚本書かせろ、ちゃんと意味のある「結」まで持って行くぜ!という叫びが、改めて止まらなくなった鑑賞でもありました。

by kababon_s | 2014-03-14 03:24 | Ballet