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「ヴィシニョーワの華麗なる世界」A・B:ディアナ様と美しき男たち

「ヴィシニョーワの華麗なる世界」8月17日にAプロ、8月21日にBプロを観てきました。

マリインスキーの来日の時は、できるなら全部観たいと思っても、そんなことしたら破産するのでどうしてもロパートキナ優先で来ていましたから、「ヴィシニョーワ」をじっくりと観るのは久々です。
そういう意味ではこの公演は非常に良かったし、彼女が連れてきてくれた男性ダンサーは本当にどれも粒揃いですばらしいし、眼福です。
いろいろ思うところはあれども、総じて非常に楽しかったプログラムでした。

両プロを観てまず思ったのは、ディアナ・ヴィシニョーワという女性のパワーとエネルギー。
ゴメスが振り付けたオープニングとエンディングのレオタード姿を見て驚いたのは、鍛えぬかれた筋肉のすごさ。
並々ならぬ身体能力の源です。

そしてヴィシニョーワという人は、全てに対して真正面、どストレート、小細工なしなんだなぁ、という印象を強くしました。

今回のヴィシニョーワの演目、Aプロが「ダイアローグ」、「オネーギン」の3幕。
Bプロは「カルメン」と「椿姫」の黒のパドドゥ。

特に「オネーギン」「椿姫」はプログラムに「独特の解釈」とあるのがナルホド、と思える、違和感さえ感じるパワフルさ。

一体なにが違うのか…。
とても勝手に言うなら、役の作り方、捉え方でしょうか。
内面にタチアナやマルグリットを取り込みあれこれ考えて練り上げ作り上げていくのとは少し違うのではなかろうか。
あくまでも個人が観た印象で、かなり勝手に語ってみます。

これからいうことは誉めてます。
批判じゃありません。
あらかじめ前置きします。

つまり例えて言うなら、彼女の役作りは「石工」というか石像の彫刻家というのか。
彼女が捉えたイメージをガーン!ガーン!とノミとハンマーで石に刻み込み彫り込み上げる感じというのか。
ブロンズの彫刻家よろしく、土台となる塑像を作るべく「マルグリット」「タチアナ」という芯棒に粘土でじわじわと形付け、自分の役どころを作っていく…というのとは違うように思えます。

「タチアナ!! 揺れる人妻!昔の初恋!でも打ち勝たねばならないのよ、オネーギンに!揺れてはならないのよ!」(ガーン!ガーン!ガーン!)
「マルグリット!! 肺病病みの高級娼婦!もう長くない!でもアルマン、あなただけが真実の恋!最後に全てを捧げるわっ!!」(ガーン!ガーン!ガーン!)
…こんなイメージでしょうか…。

実にエネルギッシュです。
パワフルです。
正面から「役」という「石」に向き合い、その中から形をえぐり出す。
そして全身全霊のパワーでえぐり出した石像に自分自身を注入する。
石像は肉を、命を得て踊り出すわけです。
人間となって、軽々と。

そりゃあもう、舞台上にはエネルギーが満ち溢れますし、精も根もつき果てます。
どストレートでありパワー全開であり、エネルギッシュでありベタでもあり、なにより小細工なしでピュアです。
ヴィシニョーワ、一本勝負!みたいな。

だから「カルメン」はそのパワーがまさにばっちりとツボにはまり、ヴィシニョーワらしさ全開で、こちらもただただ圧倒されました。
ノイマイヤーがヴィシニョーワのために振り付けた「ダイアローグ」は彼女のための作品だからこそ、リズムも魂も間も全てが彼女のものです。

そして今回の全公演、全演目、そのパワーが尽きなかったことがまたすごい。
プロフェッショナルの魂です。

さらにまたすごいと思うのは、その石像が生々しい肉を持つ人間に転化するパワーとエネルギー全てをがっちり受け止めてくれるパートナーがいる、ということです。

それが今回のゴメス。
ラテン系ならではのセクシーさとちょっと陰影のある「毒」の部分が私はすごく好きだったのですが、ディアナ様パワーに全てを捧げたゴメスは毒気が抜けきり、健全な、健康優良児的アメリカン。
彼女のピュアなどストレートパワーは一緒に踊る者も素に戻してしまうんでしょうか。
タチアナにすがるオネーギンも、カルメンに惹かれ破綻していくホセも、椿姫のアルマンもピュアな男。
ただひたすら一心に、ディアナ様に身を捧げる男です。
そしてディアナ様とともに、精魂尽き果てるまで、全身全霊を傾けて踊る。
「椿姫」が終わった後に、ゴメスの方がよろよろと倒れそうだったのが印象的でした。

そして「カルメン」がすごかったのは、このピュアでどストレートな二人に「毒」を注入するエスカミーリョ役のコルプがいたからこそ。
健ホントにコルプのエスカミーリョの色っぽさったら!
月の女神・ディアナ様カルメンはそのエロスを反射して、ますます妖しく輝く。
すごいわ…。
「闘牛士の衣装を着た男」がこれほど妖しくセクシーに感じられたのは久しぶり。
もう悶絶物のエスカミーリョでした。

そのコルプ、「レダと白鳥」の白鳥はまた、美しく妖しい白鳥の踊り。
コルプはおそらくピークは過ぎてはいるんでしょうが、表現者としてはまだまだ進化しそう。
この人も本当にシューズを脱ぐまで観ていたいダンサーの一人です。

また今回はディアナ様が連れてきてくれた、特に男性陣がすばらしかった。
ホールバーグがゴメスと踊った「モレルとサン・ルー」はゴメスが健全化したせいか、今ひとつ色気が足りない気がしたけど、でもやはりイケメン2人のパ・ド・ドゥは眼福♪
また「ジュエルズ」のダイヤモンドでは白い王子っぷりを発揮し、妖しく美しい「精霊の踊り」はただため息。
人でないものの美しさ。
この世のものともつかない魅力を見せてもらい、改めてもっと見たいと思いました。
ちょっとお腹が出始めたのが気になるとこではありますが(笑)

ハンブルクのボァディンはワイルドさと端正さとマッチョが合わさった魅力。
Aプロは髭付きワイルド、Bプロは端正&マッチョ。
オテロの腰巻きは、外すとは思わなかったがお尻がキレイで見惚れましたわ。
思わずオペラ・オン、お尻ロックオンしちゃったよ( ´艸`)
身体や筋肉がキレイだから「ナウ・アンド・ゼン」のグレコローマン衣装には別口から萌が入り、これはこれでまた悶絶。
「真夏の夜の夢」の白い衣装は、今度は端正な魅力で紳士もイケると実感。
この人も静から動まで演じ分け、「ダイアローグ」ではディアナ様のお相手も勤め、実に幅が広く、おもしろいです。

NYCBのデ・ルースは小さいのに抜群のリズム感と演技力。
さすがバランシン本家。
不思議なタメの効いた「チャイコフスキー・パドドゥ」はおもしろい解釈で、これはこれで好きだし、「タランテラ」はリズムノリノリで、まるでストーリーがあるかのような表情の豊かさでした。
そして最後は「パリの炎」で、バランシン以外もできるぞと、アピール。
これは来日公演が俄然楽しみになりましたね。

そしてなによりうれしかったのは久しぶりのパリオペ、マチアス・エイマン。
長い怪我のあとの復帰で、踊れることをかみしめているかのように、丁寧で上品でエレガント。
怪我をする前のキレッキレのイメージから変わりましたね。
そしていっそう男前になった。
すこし頬がすっきりして面長な感じになり、大人になったというのでしょうか。
彼もまたダンサーとしてまた違った段階に足を踏み入れているのかもしれません。

これだけの男性がガラのために集まる、そして集められるヴィシニョーワという女性のすごさというか、カリスマというのか。
演目的には正直面食らったところも相当にありましたし、今でも面食らってますが、ハマったときは本当にすごい。
いろんな意味で、実に濃い2日間でした。

by kababon_s | 2013-08-27 01:59 | Ballet