新国立劇場バレエ「マノン」:勇者・マクミランと白マノン

6月24日の新国立劇場バレエ「マノン」を観てきました。
主演はゲストのヒューストン・バレエ団から来たサラ・ウェッブ&マイケル・コナー。
聞いたことない、取り立てて超有名という感じではない、おそらく初めて名前を聞く人も多いであろうダンサーで、どうしようかと迷ったんですが、「マノン」はこれまでも日程が合わなかったりで、なかなか全幕を観る機会がなかった作品。
ガラなどでつぎはぎ名場面は何度も観ているけどねぇ。
またこのペアは「マノン」は踊り慣れた実力派とも聞いていたので出かけてみましたが、まあ、正解でした!

知名度は日本では決して高くない実力派を敢えて呼んだビントレー監督もすごい(芸術監督を続けてもらえたなかったのは本当に残念でならないわ)。

でもなにより今回つくづく感じ入ったのは、この「マノン」という作品を振り付けたマクミランのすごさ。
もちろんマクミラン作品は「ロミオとジュリエット」も何回も観ているんだけど、この「マノン」は性欲、金欲、貧困や虚栄虚夢のようなきらびやかさといった、人間の「欲」が赤裸々に描かれている。
卑猥だったりエロだったり、いや~ん(//∇//)なシーンでも何でもバレエに映し出し、表現させる。
一歩間違えばR指定。

だが、美しい。

後ろで踊る登場人物含めて、舞台上の「世界」、一人ひとりにまで存在の意義があり、意味がある。
なんと深い、緻密な描写なんだ。
だからこそ、涙させられる。
今でこそバレエ史の名作の一つとなっている作品だけど、それこそ発表当時は賛否両論ですごかったんだろう。
本当に勇者だ、マクミラン。

で、「マノン」。
ストーリーは元祖ファム・ファタルと言われるあの「マノン・レスコー」。
原題は「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」で時は18世紀頃のフランス。
ルイ15世時代の、娼婦も乞食も入り乱れる、先代王の華麗な絶頂期の、夢の時代を引きずった退廃のフランス。
バブルはじけたのに、はじけたことに気づかない…そんな雰囲気だろうか。

マノンは兄レスコーに連れられ修道院に入るはずが、神学生のデ・グリューと恋に落ち駆け落ち。
しかし彼女の兄はマノンに目を付けていた富豪のムッシューGMに妹を売り渡し、マノンもやはり富に目がくらんだのか、GMの愛人になることを承諾する。

宝石と毛皮を身にまとい、高級娼婦として男の間を渡り歩くマノンは、しかし彼女を一心に慕うデ・グリューと、再び駆け落ち。
遁走の際にGMの金を巻き上げて行こうと、マノンはデ・グリューにいかさまバクチをそそのかし、結局いかさまがばれて2人は追われる身に。

ムッシューGMにボコられた兄レスコーは諍いの末に命を落とし、マノンは売春の罪で流刑地ルイジアナへ送られ、デ・グリューも後を追う。

流刑地では完全犯罪者扱い、物扱いのマノン。
彼女を慰み物にする鬼畜看守をデ・グリューは刺し殺してしまい、2人は沼地へ逃げる。
すべてを失った彼女にはもうデ・グリューしかなく、マノンは彼の腕のなかで息耐える。

…とまあ、こんな救いようのない話ではありますし、「マノンちゃんたら、なんてお馬鹿なのよ…」と思ってはしまうんですが、とにかくドラマや踊りがいちいち素晴らしすぎて、最後の沼地のパ・ド・ドゥは、やっぱり滂沱爆涙なんですよ。

これを演じたマノン&デ・グリューのウェッブ&コナーが、やっぱりスゴイんです。
アメリカ・ヒューストンというからもっとベッタベタな演技をするのかと思ったけど、抑え目の、でも情感にじみ出てくるような演技。

また「マノン」というと元祖ファム・ファタルとか情婦とかいわれるけれど、ウェッブのマノンは本当に純粋な少女。
心のままに「そのときほしいもの」「そのとき好きなもの」「そのとき‘いい’といわれたもの」に流され生きてきたと言う感じでしょうか。
いわば計算もなにもない、彼女のピュアさが男を惑わし、またそれに流されていく…とでもいう雰囲気で、3幕の流刑地では散切り頭も痛々しい、弱々しい少女。
言ってみれば「白マノン」か。
白すぎるから、どんな男にでも、どんな思いにでも染まれるのだろうか。

そんなマノンですから、だからこそ一層、一心に彼女を守ろうと追い求めるデ・グリューが痛々しい。
本当に「騎士デ・グリュー」だ。
彼はマノンを失ったルイジアナで、その後どうしたんだろう…なんて、すごく気になります。

で。
そのピュアな2人を取り巻く新国のキャストが実に生々しいのですよね。

特にムッシューGMのマイレン、もうどこのエロおやじw
富豪ゆえ態度は不遜な紳士という感じだけど、マノンを見る目や足をなめ回してむっはー(*´Д`)ハァハァという変態っぷり、さんざんボコらせたレスコーを連れてくるあたりの俺様的態度とか、もういちいちツボ。
もともと演技力もすばらしい人だけに、このエロオヤジGMの変態的存在感は圧倒的でした。

古川レスコーも、幕が開いて丸く広げた黒いマントに包まれうつろに宙を見つめる表情に一瞬ドキッとします。
愛人を囲い酒を飲んで馬鹿騒ぎし、妹を売り渡す、虚栄を求めて命を落とす男。
小物っぽさがいい感じだったです。

そして鬼畜の看守がイケメン厚地さん。Σ(゚∀゚ノ)ノキャー
イケメンの鬼畜役というのは、それはそれでまたドキドキしますよ。
厚地さんだ~、と思ってオペラグラスで凝視してたらアレなもんだから、なんだか見ているこっちまで変態さんかー!?って感じで、バツ悪いのなんの(苦笑)

庶民代表・乞食のリーダーの吉本さんも、1幕に出ただけとはいえいつまでも印象に残ってる。
あるブログで見たところによると、この作品、1人2役というのはないそうな。
つまり作品のなかで、登場人物の隅々にいたるまで、1人の人間の人生を生きることを求められているのでしょう。
そして本当に、一人ひとりが強烈に印象に残ります。
うっかり一点だけ見ていると、大事なところをたくさん見落としていそうで、見るのが忙しい舞台でもありますなぁ。

ともかく、このドラマを深々と表現してくれたゲストペア、そして人間模様を踊りきった新国のダンサーさんたちにブラボーです。

数日経った今でも、あの寝室のパドドゥの音楽が頭から離れないのは、あのシーンが後の沼地の悲劇に繋がる思い出のなかで、一番刹那的で、ピュアな、純粋なきらめきを放っていたからなんだろうなぁ。

新国「マノン」、次は純正新国の小野&福岡ペアを観に行きます。
楽しみ。
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by kababon_s | 2012-06-28 22:40 | 新国立劇場バレエ