ベルリン国立バレエ団「チャイコフスキー」:時を経て、川の石が丸くなるように

エイフマン振り付けの「チャイコフスキー」、結局保険かけていたおかげで(せいで?)初日・楽日の2回を見ることになりました(苦笑)
まあ楽日はエコノミー券ゆえいつもの天井桟敷でしたが。
でも結局2回見られてよかった。

というのもこの「チャイコフスキー」、1993年に発表されて以来の副題は「光と影」でしたが、今回の改訂版の副題は「生と死のミステリー」。
何かが違うんだろうが、何が違うのか??と思い、また初日はこれまでの「チャイコフスキー」のイメージが強かったこともあって「??」を発しつつの鑑賞でしたゆえに(^_^;)
それゆえ楽日はかなり落ち着いて観ることができました。

そして観終わって一番思ったのは、この作品はエイフマン・バレエ団以外が踊ることにより、またマラーホフという踊り手を得たことで成熟期に入ったのかな、ということです。
山頂にあった岩が20年という年月という川の流れの中で角が削られ、丸みを帯びてきたとでもいうのでしょうか。

これまでエイフマン・バレエ団で見た時はもっとカチカチ、キビキビ、スピーディーにめまぐるしいまでに踊り手が交錯し、止めも動きもメリハリがより強かった。
そうした空間を縦横無尽に使った動きとストーリーや心理描写の重さとともに、鋭いもので心をグリグリえぐられるような感じがあり、観終わった後は、脱力しただ茫然自失し、そしてひしひしと湧いてくる感慨・感動…というのがいつものエイフマン作品を見た印象。
昨年新国立劇場で観た「アンナ・カレーニナ」もそうでした。

でも今回のベルリン国立バレエの「チャイコフスキー」はそうした「鋭利さ」はもちろんあれども影をひそめ、丸く、円く、ゆるやかで、エロい(笑)
ストーリーは全然変わっていないのに。

でも、踊りや動きが円く、ゆるやかになった分、チャイコフスキーをはじめとする登場人物の心理描写が一層重苦しく、厚みを伴って伝わってくる。
実際ストーリーや作品が訴える“重さ”は変わりません。
いや、むしろ周辺の登場人物の心理さえもが加わった分、より一層重くなっている。
観終わった時はやはりズン!と心に重しがのしかかったような、そんな感じでした。

主人公やその分身はもとより、狂気の女房、幻想の王子、フォン・メック夫人など、登場人物すべてにより一層存在感があり、その存在がチャイコフスキーを苦しめ、悩ませる。
妻やパトロンの存在や思いと自身の思い(あるいは性癖)や美の世界のはざまでますます混乱し、そこに本人の分身も加わって、さらにカオスとなり、自身を追い詰めるチャイコフスキー。

社会的体裁で結婚すれど男色ゆえに女を愛せるわけもなく、また彼女は芸術よりチャイコフスキーの名声を愛していた。
交響曲5番の第4楽章が高らかに響く結婚式は、まさに地獄への第一歩。
音楽が荘厳で勇壮なだけに、あの白いドレスとベールが一層恐ろしく空々しい。
金持ちのパトロンがいるから生活を支えられるが、しかし金の援助を受ける屈辱。
友であり魔女。
優雅で美しい王子は、やはり古典クラッシックも踊るバレエ団ゆえかの気品にあふれ、そして清潔な、いつまでも清潔な永遠の白。
そしてハマり込んだ賭博の世界に満ちる、破綻の誘惑と陶酔感。
もはや退廃美。
陽気で明るい「イタリア奇想曲」とともに繰り広げられる、人間カードと戯れる賭博世界の艶っぽさ、エロさったら…!

彼の世界では「白」は美であるが時として狂気になり、また「黒」がおぞましいものでありながらも美となります。
白と黒、光と影が交錯する「生と死のミステリー」です。

そして最後の交響曲「悲壮」とともに「己」に殉じるチャイコフスキー。
チャイコフスキーの絶望度とロマンチシズムは比例するのではないかと思わせるような曲使いも見事です。

なによりマラーホフ。
というより、正直「マラーホフが演じている」という感じがしなかったのですよね。

では、誰だ?
あそこで踊っているのは、のたうちまわり悩み、絶望し、賭博の誘惑に陶酔し、美と、高みを求めてやまないあの男は誰だ…??
「芸術家」としてのマラーホフの真髄はここにあったのかもしれない、と思わせる渾身の演技であり踊りです。

ブラボー! エイフマン&マラーホフ!

というわけで。
やっぱり思うのは「エイフマンの本家が観たい」ということと、「もっとエイフマンのほかの作品も見たい!」ということ。
でも作品は踊り継がれてこそ、作品。
今回のベルリン国立バレエによる「チャイコフスキー」のように、もっといろいろなカンパニーがエイフマンを持ってきてくれてもいいなとも思いました。

できれば今度は「カラマーゾフ」が観たい。
「チャイコフスキー」に匹敵するほどのこの名作を、今すごく観たいと思ってます。
もちろん新作の「オネーギン」も、「アンナ・カレーニナ」も「ロシアのハムレット」も観たいのですが。
どこか呼んでくれないかなぁ!
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by kababon_s | 2011-01-26 04:12 | Ballet