「奇跡の響演」:一生に一度、この日、この瞬間だけのもの

ズービン・メータ指揮、イスラエル・フィルハーモニー・オーケストラ(IPO)演奏、踊りはモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)&東京バレエ団というコラボレーション「奇跡の響演」に行って参りました。

いやもう、すごかった。
大満足と言いますか、何が主役で何が脇役というのではなく、それぞれズービン・メータでありIPOであり、またベジャールでありBBLであったという、本当の意味でのコラボレーションという舞台でした。
しかもオペラ指揮者としても有名なズービン・メータは初めてバレエを振ったという。
それでいてこのクオリティ…!
いやもう、本当に一生ものの、今宵限りの舞台だったと思います。

もちろん私はクラッシックも聞きますしバレエも観ますが、こうした有名指揮者を招いてのコラボって、バレエ鑑賞側からしてみると、得てして指揮者の一人勝ちだったりする――つまり踊り手が運動会になっちゃうようなことが多く、行く前までは一抹の不安を感じない訳ではなかったのですが。

本当にメータの指揮は音楽を解釈したうえで、さらにベジャールが振り付けた、彼のバレエ作品を解釈したうえでの振りだったような。
しかもなんでしょう、なんて透明で円いんでしょうか、この人とIPOの音は…!!

●第一部「ペトルーシュカ」/東京バレエ団

信じられない! 信じられない!!
すごすぎる!!
こんな「ペトルーシュカ」、聴いたことない!!

あの金管の高音さえもささくれなく、円く、なめらかで優しく、愛情に満ちたペトルーシュカ…!!
ありですか!?
こんな「ペトルーシュカ」、ありですか――!?

のっけからもうズービン・メータにやられまくりです。
第一楽章のあのお馴染みのメロディーが流れた瞬間、もうパブロフの犬のごとく、涎じゃなく目から水が瀑落でした…!

ベジャールの「ペトルーシュカ」はロシアの謝肉祭の人形劇ではなく、村の青年、恋人、友人による心理劇です。
主人公である青年が3つの仮面を着けることで気が付かなかった己の内面――醜悪、暴力など、見たくない“もう一人の自分”に気付き、悩み、破綻するという内容(だと思う)のですが。

それを慈愛…というのでしょうか。
天上から愚かな、しかし悩み生きようとする小さな人間に愛情の眼差しを注ぐような音色で物語を運んでくれるわけです、仏のメータ!?

しかも主人公・青年役の長瀬君の初々しさ、若々しさも相まって、その慈愛性が一層迫ります。

何でしょう、この奥行きというか広さは。
インド人であるズービン・メータの、なんかDNAにその答えを求めざるを得ないような、それほどまでに一種“不思議”というべき音色です。

また長瀬君がちょっと見ないうちに上手くなっていたうえに、友人役に木村さんが登場。
平野君が残念ながら怪我ということで、初日キャストの木村さんが連日友人を演じることになったのですが、今回は木村さんの踊りは見られないと思っていただけに、それはそれで良かったというか。
ホントに、長瀬君の若々しさというか青さがあってこその、相乗効果でありコラボだったと思います。
こんな「ペトルーシュカ」、もう二度と聴けない・見られないと思う…。

●第二部「愛が私に語りかけるもの」/モーリス・ベジャール・バレエ団

音楽はマーラー3番の4,5,6楽章。
個人的には多分、マーラーの交響曲では一番優しく愛情に満ちた曲だと思うのですが、それの抜粋というのはもったいないような贅沢なような。
さらにソプラノ歌手も女性&子供合唱も生でついているからやはり贅沢なのかもです。

これもまたメータならではの美しさ。
「世界一の弦」と言われるIPOの音色が素晴らしい。
なんでしょうこの曇りのない音は…!

東バの後にBBLを見てしまうと、やはりレベルの差は歴然で、本家BBLのすごさを改めて感じさせられます。
何度も踊っている作品ゆえにもうパーフェクトといいますか…。
身体の切れやメリハリというか動きがやはり、本家だなぁ!
エリザベット・ロスも相変らずあの長い手足の動きが小気味良い。

この作品は赤裸々な人間の脈々と続く「命」の鎖を、この作品は「愛情」という結びつきで描きだしている(と思う)。
「自然界を描いた」とマーラー3番を、これまたメータが木漏れ日の煌きや若々しい子供の命の輝き、太陽、そして月と、繊細に紡いでいくようです。
全て観終わったときにじわっと来るような静かな、でも熱い感動がありました。

ところであの子供役の日本人の男の子(大貫真幹君)はどこのカンパニーの所属なんでしょう?

●第三部「春の祭典」/モーリス・ベジャール・バレエ団&東京バレエ団

ズービン・メータの音は円くて優しい…と思ったら、この「春の祭典」はもう漲るエネルギーというか、雄雌の獣性丸出しというか、なんともパワフル!
命の力、欲望もエロも何もかも炸裂しているような、凄まじい力が漲るような演奏です。
第一部の「ペトルーシュカ」は、ホントにやはり特別だったんだとつくづく思わせられます。

踊りもBBL&東バのミックスで、女性の生贄が井脇幸江さんというのも、実はこの日の楽しみの一つでした。
井脇さん、舞台に上がる機会が最近めっきり減っているだけに、ステージ中央で、いわゆる主役として踊る井脇さんを見られるのは本当にウレシイことです。
でまた、相変らず井脇さんならではの不思議な色気に満ちた生贄。
しかも毅然とした、凛とした誇りすら感じられる。
(生贄には)なりたくなかったのに選ばれ、本人は足が震えておっかなくてしょうがない…という男性サイド(オスカー・シャコン)との対称性がより一層引き立つ、ヤマトナデシコの面目躍如のような井脇さんです。

コラボミックスですから4人の男性はBBL、東バから2人ずつ。
これも踊りを合わせるのはすごく大変だったと思います。

雄のパートから、雌のパートへ。
そして「春の祭典」の如く雄雌の交歓と漲る命の叫び。
ベジャールらしい群舞。
踊りが引っ張るのか、音楽が引っ張るのか。
いやまさにコラボならではの、一体となった凄まじい力に満ちたフィナーレでした…!


最後のカーテンコールは楽団員がさっさとオケピから引き揚げてしまって、メータの挨拶はどうしたんだ…??と思いきや。
何度目かのコールで舞台上にIPOとメータが勢揃い!
そしてジル・ロマンも登場!

この日はメータが振るということもあり、おっさんとかオジサンとかメータのファンもいて普段のバレエ公演とは客層が微妙に違っていたのですが、双方ともに大満足公演だったかと思います。
前席のおっさん達なんか「いやあ~~!! すごい! すごい!」を連発しながら拍手しておりましたよ(笑)
確かに昔からのメータファンにしてみれば、彼が今回初めてバレエを振り、その曲に合わせてBBLのような高名なバレエ団が実際に踊る舞台なんて、おそらくもうそんなに機会があるものではないでしょうし、ひょっとしたら今宵限りかもしれない。

私にしても、正直ズービン・メータは「時々ニューイヤーコンサートで振ってる」と思っていましたが実際に真面目にしっかり聴いたことはなかったのですね(^_^;)
本当に今回、その凄さ・偉大さに圧倒されました。
ちょっとそのうちCD探してしっかり聴いてみようと思います、ズービン・メータ。

ああもう本当に、一生に一度の舞台でした…!
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by kababon_s | 2010-11-06 02:27 | Ballet