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新国立劇場バレエ団「こうもり」千秋楽:幸せいっぱいに満たされる

4月26日、新国立劇場バレエ団「こうもり」千秋楽、新国の創設からのメンバーである湯川麻美子さんの、引退公演でした。

この日はとにかく劇場に入った瞬間から、なんだか不思議な空気でした。
というよりその前から、TL上でも団員さんが「湯川さんの引退公演です」と流すほどに、意気込みが違っていたように思います。
団員はもとより客席も、「この舞台を最高のものにして、湯川さんを送り出そう」という気概が感じられたというのか。
ビントレー監督の最終公演も一種異様な空気がありましたが、それとはまた違う、湯川さんのための、湯川さんへの思いでしょう。

つくづく感じるのはこの「こうもり」という公演を引退の花道として選ぶという、湯川さんの独特のキャラクターです。
一般的に思えばこの「こうもり」、日本人には苦手なコミカル表現やマイム、濡れ場のラブシーンとか、しかも姫ではなく倦怠期の奥様とか、毛色の変わったものであることには間違いない。
それを初演時から5回主演で踊って引退するなんて、なんて麻美子さんらしいんでしょう!

またこれは方々のインタビューでも語られていましたが、彼女はお姫様や古典の主演を張るようなタイプではありません。
それでも「カルミナ・ブラーナ」のフォルトゥナで伝説を作り、「パゴダの王子」ではエピーヌで存在感と貫禄を発揮し、また「こうもり」のベラのような奥様で初演時から主演を張ってきたというのは、やはり独特の、オンリーワンのキャラクターです。

そうしたすばらしい先輩がいたから、この「難しい」役所を楽しそうに踊るよき「お手本」がいたから、ひょっとしたら今回若いダンサーさんたちも「こうもり」に真正面から立ち向かうことができたのかもしれません。
だからこそ、今回の公演は総じて「こうもりってこんなに面白かったのか!」という結果につながったのかも。
そしてそういう湯川さん存在感や独自性を生かしてこられる演目があるというのも、このカンパニーの幅広さでもあると思うのです。

果たしてこの日の舞台の上のベラは、実に楽しそうで自然で、旦那とうまく行かないというシチュエーションさえもコミカルです。
あの手この手で旦那の気を引こうとする。
おネグの肩をちょちょっとずらしてベッドに入り込もうとする仕草とか、踊り込んだ湯川さんならではです。

麻美子さんの引退舞台のお相手を務めるのが福岡雄大ですが、これがまた、エノケン・ウルリックとはぜんぜん違ったメリハリの効いたヨハン。
ぶっきらぼうで仏頂面と思ったら寝入った女房を見て「ヒャッホウ」と飛んでいくあたりは、さすがといいますか。
彼はやはり二枚目半のコンテンポラリー系だと生き生きとします。
実に存在感のある、役の懐の広い男になったなぁ…。

また八幡ウルリックが実にいい味わいです。
心から敬愛している麻美子さんへの思いが、そのままウルリックに乗り移ったかのようです。
秘めた思いが、でもおネグのシーンではコミカルに、「うほっ(☆ω☆*)」とばかりにドギマギとしているのが伝わってきて、実にいいウルリックでした。
アキミツ、昔の吉本さんとは違った味があって良いですね~。
彼の繊細ないい人キャラにぴったりです。

ギャルソン・マイレン筆頭に、チャルダーシュの池田君も、コールドの面々もみんなが全力投球で気合いがひしひしと伝わってきます。
小口君も一層濃厚です(笑)
マイレンの顔を見ていたら、DTFで見た、マイレンが麻美子さんのために降り付けたという、あの作品がよみがえってきて、一瞬熱くなりました。
客席も含め、すべてが「麻美子さんのために」「いい舞台のために」というベクトルに向かっていて、でも「別れ」の悲壮感はなく…というより覆い隠され(寂しくないはずない)、それが結果すばらしい「新国のこうもり」の舞台になっています。
なんて幸せなんだ…!
「この場にいる幸せ」というのを、この日は何度感じたことか。

そういう「幸せ」のなかでじわっときた…というより、ある意味我に返ったのが留置所のシーン。
あの麻美子さんの恍惚の表情を見ていたら、彼女のバレエ人生、舞台人としての思いなどなにもかもが全て伝わってくるようで、ドキッとしました。
はたと、ああこれが麻美子さんを見る最後の舞台なんだなぁと……しんみりとしつつ。

でも、最後のワルツは華やかです。
明るくて笑みいっぱいです。
こんなワルツで舞台を締めくくれるなんて、すてきです。
ワルツを踊る麻美子さんの楽しそうな満面の笑みが忘れられません。
いろいろあったけど幸せだったんだなぁ……という思いと、感謝の思いでいっぱいでした。

カーテンコールはもちろん、上の方もスタンディングでした。
胸から白バラを抜いて、ひざまづいて麻美子さんに捧げる雄大がオトコマエです。
彼も立派に、大女優の、大ダンサーのエスコートを務めあげました。
最後までやってくれるぜコンチクショー雄大!(泣笑)
惜しむらくは、幕が下りたあとに雄大が麻美子さんにバラの花束を贈呈していたようですが、それを観客の前でやってほしかった。

でも広報下手の新国にしては、(宣伝効果を狙ったにしても)麻美子さんの引退を早くから発表し、彼女のコメントも載せ、創立以来の功労者である一人のダンサーを送り出そうとする気概はやはりあったと思います。
たとえ脇の人でも、こうして長く務めあげてくれたダンサーさんには、今後もこうしたセレモニーをしていただきたいなぁと思います。

この日に立ち会えて、本当に幸せでした。
寂しいけど、でも幸せでした。
コメディで去っていく麻美子さん、とても彼女らしい。
新国一筋で生きてきた麻美子さん、今後も何らかの形で新国に戻ってきてほしいなぁと、切に願います。
心から、ありがとうございました。
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by kababon_s | 2015-06-04 01:54 | 新国立劇場バレエ