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NHKバレエの饗宴2015:TV必見の幸せな祝宴

3月28日、NHKバレエの饗宴2015に行ってきました。
最初に言いますとTV放送があります。

4月12日(日)21:00 クラシック音楽館
http://www4.nhk.or.jp/ongakukan/


NHKホールはバレエを見るにはでか過ぎてあまり好きじゃないんですが、今年は新国立劇場バレエ団とNoismが出る。
思えばこの公演は第1回を見て以来、この時期はなにかと出張が入ったりで行けなかったのですが、新国とNoismが出るときに日本にいたっていうのは巡り合わせ。
これは行け、ということだ。

そして、行ってよかった!
実にシアワセでした(*^▽^*)
出演は4団体と少なかったのですが、それでも楽しめましたし、何度もいいますが終わったときにはめちゃめちゃシアワセだったんですよ、特に最後の新国の祝宴が。
あの空気をじかに感じられただけでもう、行った甲斐がありました。

特に「眠れる森の美女」の3幕、宴ですね、結婚式の。
シアワセいっぱいです。
この切り取った舞台を、でも「饗宴」というお祭りプログラムに仕上げ直してきた新国ダンサーさんたちに敬服します。

この「眠り」、2014年秋に新制作された新国版です。
全幕通せばつっこみどころや修正希望箇所(特に宝石の衣装)は多々あるのですが、それでも新国素敵ダンサーさんたちのクオリティが素晴らしく、またレベルが高いということを改めて実感できました。
ファンとして彼らを誇りに思いましたし、ドヤ!(`・∀・´)とばかりに胸を張ってしまいましたね。
この舞台がTV放送され、新国のバレエ、ダンサーさん達をたくさんの人に見てもらえると思うと感無量です。
泣きたいくらいうれしいです。
日本で最高レベルのバレエ団である、これを「知ってもらうこと」はすごく大事ですよ。
というわけで、プログラム順に。

●パキータ/牧阿佐美バレヱ団

主演の青山&菊池さんは良かったです。
パドトロワの男性、清瀧君もあるお教室のゲストで見たときに腹周りがぶよってて結構ショックだったのですが、今回は絞れて、衣装も黒だったのもあっていい感じでした。
やっぱり牧でトップを張っているだけあって、菊池&清瀧君は身体も柔らかく跳躍もきれい。
青山さんの根性がにじみ出るようなグランフェッテも拍手ものでした。

ただ全体的には主演2人とトロワの男性にゲストを呼んだお教室の発表会のようで、「まだおわらないかなー」と思ったのが正直なところです。
きれいに踊るの(だけ)が取り柄の牧なのに、きれいに踊れなくちゃお話しにならんわー。

●Supernova/Noism1

金森さんの新作。
これが(も)見たくて行ったのですが、さすが斜め上の金森クオリティというのかNoismクオリティというのか。

タイトルからしてNoismならではの強靱な身体能力を生かしてアクティブでスピーディーな作品なのかと思ったら、動きはスロー系。
こうくるかー!
しかも真ん中の超新星、井関佐和子さんは頭からすっぽりと白い網タイツをかぶったようなびっくり衣装です。

それでも幕が上がり、次第に浮かび上がる佐和子さんの姿は、立っているだけで「井関佐和子である!!」というオーラと存在感を放ち、それだけでまず「ゴクリ」。

柔らかい暖色のライトが移動する様は新星の膨張でしょうか。
伸縮を繰り返し、しかし強力なエネルギーを内に秘めながら漆黒の宇宙空間で怪しくうごめくような超新星。
黛さんの「G線上のアリア」という、これまたゆったりと、不気味な不協和音をとどろかせる曲が、新星のうごめきにさらにエネルギーと計り知れない力を与えているようです。
宇宙の深遠、太古から変わらずにそこにあるエネルギーのうごめきでしょうか…。

ゆっくりとした動きは、でも逆にこれは鍛え抜かれた身体能力がなければコロン!と転がってしまうわけで、かえってこのカンパニーの力量をひしひしと思い知らされます。
ゆったりと、最後までゆったりと、膨張と伸縮を繰り返す超新星は、人の時間に対する地球の時間、宇宙の時間の果てしなさ、広さすら感じさせます。
じっと息を潜めて見入るような15分間。
しかし実に濃い15分間です。
…こわいカンパニーだ…。

●カルメン(抜粋)/下村由理恵バレエアンサンブル

御年おそらく50歳くらいだろうという下村さんの、渾身のカルメン。
振り付けはご主人である萩原聖一さん。
ゲストとしてドン・ホセに新国でおなじみの山本隆之さんと、その上官に牧の森田健太郎。

抜粋版ゆえ、お話はカルメンに惹かれ翻弄される2人の男性との三角関係が中心です。
そして何者にも束縛されず拘束されず、「己の心のまま」を貫く「カルメン」という女…いや魂か?

純情そうなドン・ホセにふてぶてしい上官。
森田さんは牧で王子(言ってて眩暈)を踊ってた頃より、三銃士のダルタニャン等々キャラ役の方が絶対にいいですね。
しかも昔より今の方が断然いい。

カルメンを巡り山本VS森田…というよりは、山本さんが一方的になぶられるだけのエア殴り合いはドキドキします。
そこでなぜ山本さんのシャツをはだける必要があるんだ(//∇//)…というのはさておき、不敵な笑みを浮かべる女性たちのアンサンブルが場の緊張感を盛り上げ、山本ホセがただ一人、悩み、翻弄されていきます。
何より下村さんの年齢なんて全く感じさせない動き、踊りがまるでエネルギーの固まり。
表現者、演技者ってこれか!と唸らせられるほどに、足の一歩、腕のひと振りで物語がぐいぐいと動きます。

カルメンの衣装が途中から赤から白へ。
愛…というより己の心に忠実な純粋さでしょうか。
だからこそ、ホセに刺されたあとのカルメンは、とき放たれた自由な魂のようです。
そして大地を蹴るようなパワフルさから軽やかに、体重を感じさせない下村さんの踊りがまたお見事。
バレエ団って、規模じゃない。
夫婦ですごい挑戦をしているんだなぁ…。

●「眠れる森の美女」3幕/新国立劇場バレエ団

満を持しての登場の新国。
お祭りとはいえ、本気度は半端ない、真剣超全力投球です。

なんせ本公演ではセカンドキャストで王子等を踊った方々も宝石やオオカミなどに配役されている、饗宴版豪華キャストですから。
それでもまだあの人とかあの人等々がいなかったりするんだからな~…。

主演に小野絢子・福岡雄大、米沢唯ちゃんがフロリナ。
宝石の女性に細田さん、奥田さんが入っていて、新国版オリジナルのゴールドが奥村君。
赤ずきん&オオカミに広瀬&福田君。
本公演でオオカミ&カタラビュートの小口君が貴族のアンサンブルに回り、残念と思えどまあ顔が見えるからおk(^ m ^)
でも本公演でゴールドを踊り、また先のトリプルビルで超大活躍だった池田君が白猫の輿担ぎの犬(顔が見えないー)とか残念。

ともあれ。

幕が上がり薄暗い舞台に、輪島カタラビュートのマントのひと振りで明かりが灯り、宴が始まる。
もう開幕の音楽と輪島のひと振りでムネアツで泣きそうですよ(笑)
輪島のひと振り(TVではどう見えるのでしょうか。人の視点が入ると変わるかもだが…)。
輪島カタラビュート、宴の間も「うんうん」って頷きながら見守る姿が微笑ましいです。
ストイックで、頼りがいのあるお兄さんです。

男性貴族のアンサンブルに小口、宝満、林田等々のイケメンが勢ぞろい。
新国の男性陣はこういう古典も立ち姿に品があります。

宝石は細田さんのエメラルドがまたクリアな色彩。
猫は原田舞子&原組です。
白猫のキュートさと、ハチワレ猫の癒し系原君がなんかいいコンビネーションです。

フロリナと青い鳥が米沢&井澤組だったのですが、これがまた見応えあるのなんの!
祝宴仕様でしょうか、唯ちゃんはまたいろいろ仕掛けてきてる(笑)
雄弁な腕の動きは小鳥のようでもあり花の精のようでもあり。
青い鳥と出会った喜びでその花が沸き立ち、会場にあふれんばかりのようです。
そうか、フロリナと青い鳥はこのオーロラの結婚式という祝宴にいっぱいいっぱいのシアワセを届けにくるという役割があるのねぇ…なんて、感じいりました。
唯ちゃんの踊りにはいつも何かを気づかされます。

青い鳥の井澤君、若い子はやっぱりこういう役は似合う。
スタイルが良く背が高いので、唯ちゃんとのバランスもいいですね。
ソツなく踊っているんですが、でも先のトリプルビルを見たときも思い、またバレ友さんも言ってたのですが、やっぱり身体固いなー。
この点は牧の菊池さん、清瀧君は実に柔軟でさすがと思いますし、それゆえ表現も豊かに見えます。
卒なく踊ってはいますが、総合すると牧のお二人にもまだまだ及ばない。
王子の道は険しいのぅ。

赤ずきん&オオカミは、本公演で小口君がブレイクダンス風オオカミをやってきたのに対して、福田君はなんかスカートのすそをつまんだりと、おねぇっぽいです。
まあ女装オオカミですから、そっちのキャラをとったのかな?
人によって違うのが面白いです。

親指トムの八幡君は相変わらず愛されキャラ全開です。
前回のアラジンの時は主演とはいえ、踊りがほとんどなかったので、今回は一杯踊れてよかったね!

そして真打登場!といわんばかりのキラッキラの絢子姫に、やっぱり貫禄がすさまじくついてきた雄大君。
2人してキラッキラのニッコニコで、これまで盛り上げてきてシアワセがいっぱい詰まった舞台にこれでもか!といわんばかりのダメ押し笑顔で幸福メーター振り切れてる(笑)
しかし踊りは隙が無い。
特に雄大君は本当にいいダンサーになったなぁ…!
もちろん細かいミスはあれども総じてキレッキレで跳躍も高く、跳んで足を打ち付ける音が3階まで小気味よく響いてきます。
これでまだまだ伸びしろを感じるんだから、どこまでいくのだろう、この男は。

フィナーレでは後ろで槍を持って控えていた方々が王妃と貝川王様のマントを掲げ持って入場してくるのが微笑ましかったですね。
池田&小柴のワンココンビのちょっとした愛嬌も、笑いが起こってよかったなぁ(笑)

というわけで、華やかな饗宴でした。
フィナーレで雄大、絢子姫、山本さんが手を繋いでいたのがまた幸せで嬉しくなりました(*^▽^*)

今回4団体は少ないよなぁ…と思えど、大トリ新国にこれだけやられちゃあ、Noismや下村さんのように全く比べようのない個性を確立しているような団体はともかく、生半可な古典プログラムでは太刀打ちできないだろうし、出なくて正解だったんじゃないの?とも思ったり…。

というわけでバレエの饗宴、TV放送予定は以下の通りです。
必見よ!

4月12日(日)21:00 クラシック音楽館
http://www4.nhk.or.jp/ongakukan/
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by kababon_s | 2015-04-09 02:33 | Ballet

谷桃子バレエ団「海賊」:アリなしの勇気ある挑戦

3月21日マチネ、谷桃子バレエ団「海賊」を見てきました。
エルダー・アリエフ振り付け、イリーナ・コルパコワ監修の新制作版で、日本初演です。
「海賊」といえば原典自体がいろいろ手が加わり、元がどんな形だったかさえわからず、さらにあっちこっちからいろいろな音楽を足して足して足して……とやっているうちに、なんだかよーわからんわ、という状態になってしまっても上演が繰り返されている、不思議な作品です。
が、やはりキャラの妙に濃い男踊りが多くて、つい見てしまいます。

その不思議な謎の作品を「プティパの振り付けは残しつつ、お話の筋をすっきりさせ整理した」というのがこの「アリエフ・コルパコワ版」といえましょう。

キャストを見て「んん?」と思った通り、最大の違いはアリとビルバントがいないことです。

プログラムによると、そもそもアリというキャラは初演時のコンラッドがお年で激しいヴァリエーションが踊れなかったため付け加えたキャラ、ということだそう。
つまりアリはお話から消えても態勢に影響はない、といういことでしょう。

でも「なにがなんだか、よーわからんわ」という海賊がそれでも上演を繰り返してきた理由のひとつは、おそらくあの有名なグランパドドゥの存在があるのでは。
ガラやコンクールでも踊られる人気のパドドゥであり、アリのヴァリエーションです。
アリをカットするというのは、相当に勇気のいったことと思います。

その分ストーリーはコンラッドを中心に据え置き、彼とメドーラの恋愛に絞っています。
コンラッド中心というのは私的には非常にうれしいものです。
だって、やっぱりコンラッド、かっこいいじゃないですか。
イケメンポジションじゃないですか。

ともかく、そういう勇気のいる挑戦だったアリエフ・コルパコワ版の海賊です。
言わんとしていることはすごくわかります。
とってもよくわかりますし、男踊りはかっこいいし、谷の男性もよく踊るしパワフルだし、これはこれでありだと思います。

ただ一方で、枝葉を全部切り落とした立木というのか、鉋で削りまくってツヤツヤになった白木というのか、炭酸を抜いたコーラというのか、とにかく毒抜きの「キレイ」な海賊でした、いろいろな意味で。
つっこみ始めたらキリはないのですが、でも話の筋は通ります。
何より若い齊藤拓芸術監督(39歳!)の率いる谷桃子バレエ団の、この作品にかける熱い意欲がひしひしと伝わってきました。
ダンサーさんの気持ちがまとまって一丸となって踊る舞台ってのは、やはり見ていて楽しいし、素晴らしいです。
このバレエ団、今すごく雰囲気がいいんだな。

というわけで、せっかくですから以下1幕から順を追って。

●1幕:コンラッドはピンクの花園の夢を見る

序曲のおなじみ海賊船の登場ですが、難破ではないようです。
無事ある海岸に上陸したコンラッド(今井智也)一行、早速男女群舞の海賊の踊り。
船には女性も乗っていたんでしょうか。
服を着替えて奴隷市場に乗り込みます。

奴隷市場ではお金持ちのパシャ(まん丸でキュートでらぶりー)を相手にイザーク・ランケデム(三木雄馬)が「商品」のお披露目。
てかフルネームか、ランケデム!?
イザークだったのか、君は(笑)

ともかくイザーク・ランケデム(←しつこい)とギュリナーラ(齊藤耀)との奴隷市場のパドドゥです。
このギュリナーラがいやよいやよ、と言うよりは「できるだけお金持ちがいいわ~」と自己アピールしまくる、なんだかとってもポジティブ(笑)な女性です。

そこに現れるコンラッド一味。

ギュリナーラが見事お買い上げされ、次に登場したのがメドーラ(永橋あゆみ)。
ここでメドーラとコンラッドがふぉーりんらぶです。

ライトが落ち、時が止まったなかで踊られる2人の世界。
一瞬で、目が合った瞬間惹かれあってもうどうにもならない、誰にも止められない、どうにも止まらない~、という思いが踊られます。
気持ちがすごく伝わってくる。

しかしメドーラもまたパシャにお買い上げ。
ここで乱闘になるのかと思いきや、海賊一味は大暴れもせずに去っていくパシャの後を追い退場。
……何のために来たんだ、お前ら(^_^;)

場面変わって海賊のアジト。
「1人にしてくれ」と人払いしたコンラッドはそのまま寝入ってしまうのですが、ここであの、生ける花園……!!ガーン(゚д゚lll)

待ってくれ、コンラッドってこんなちゃらい夢を見るキャラですか!?
これはファニーなパシャの夢ならわかるが……?
こんな脳天気な音楽でピンクの花園の、ホレた女の夢見るコンラッドなんてやだー!!・゚・(つД`)・゚・ ウェ―ン
とまぁ、のっけっからさまざまな思いが駆け巡るわけですが。

言わんとすることはわかるわけです。
夢に見るほどホレちゃった。
罪作りなのはこの花園の、ディズニーランドか安っぽいフレンチカンカンのような音楽なんです(;´д`)トホホ…

踊り自体はコンラッドも加わってのパドドゥ付き。
総じてこのバージョンのコンラッドは実に出番が多くよく踊る。
今まで、立ちんぼだったり、人によっては空気だったり、結局単なる色ボケにしか見えなかったり、というコンラッドにスポットを当てようとする意欲はとてもよくわかるし、やはりこれはすごくうれしいです。
コンラッド、かっこいいコンラッドっていいじゃないか…(若干息切れ気味)。

でも……どうしても、この花園のコールドを使わなきゃいけなかったですか?
今これだけいろいろなバレエがあるんだもの、無理して女性コールドをねじ込まなくてもいいじゃん!と思ってしまうんですけどね……(T_T)

ともかく。
夢から覚めて自分の心に気づいたコンラッドはメドーラのいるパシャの宮殿へと出かけていくのでした…(すでに遠い目)。

●2幕:コンラッドはメドーラの愛の奴隷

気を取り直して。
パシャの宮殿ですっかり環境に順応しているギュリナーラがハレムを仕切っています。
このギュリナーラのキャラはなかなかいいですね。
ポジティブに生きてます。
パシャをもてなすために、ここでオダリスクが踊られます。

でもメドーラはベッドに突っ伏したまま。
パシャを拒絶し、己の状況を悲観し、市場で会ったコンラッドに思いを馳せます。

1人になったメドーラのところに現れたのはコンラッド王子(単独)。
さらにギュリナーラが現れ、メドーラに同情し自分が身代わりになってメドーラとコンラッドを逃がします。

メドーラのヴェールをまとってベッドに突っ伏しているギュリナーラのところへパシャが宝石等々贈り物を持って現れ、ギュリナーラはちゃっかりいただいてしまう……というシーンも。
このギュリナーラはなかなか分かりやすい。
いいキャラです。

別段海賊のチャンバラもなく、メドーラをつれて帰ってきたお頭コンラッドを仲間たちは迎え、ここで踊られるのがあの例の、一番有名なパドドゥ。

ですが。

コンラッド、それまではギリシア風のかっこいい海賊衣装だったんですけど、ここでアリの衣装に着替えてしまうんです。
頭に羽まで付けて。

いや、言わんとすることはすごくわかるのですが(こればっかり)、このパドドゥ、振り付けも奴隷のままですから、コンラッドがいきなりアリになってしまった感が拭えない。

いや、奴隷のようにあなたに愛を捧げます、と解釈もできるのですが、そう思った瞬間もう「サバの女王」のあの、「わ~たしはあなた~の~ あ~いの~どれい~~♪」が頭に浮かんできてしまって、海賊のパドドゥの曲と2曲並行で脳内ステレオサラウンドのようなカオスな状態に陥ってしまいました( ̄v ̄lll)

衣装……奴隷でなきゃだめでしたか?
最後までコンラッドを貫いてほしかった。
せめて衣装がコンラッドなら、サバの女王は引っ込んでいてくれたかもしれない……。

ともかく。
パドドゥが終わり、フィナーレを飾るのがフォルパン。
迫力です。
かっこいいです。
否が応でもテンションマックス。

フォルパン・チーフに芸術監督の齊藤さんが自らお出まし。
これフォルパン・チーフでなくても、ビルバントでもよかった気がします。
コンラッドに忠実な白ビルバント(笑)
ラストはアリだかコンラッドだか、ともかくお頭はメドーラを伴い、また新たな冒険へと旅立っていくのでした(拍手)。

とまぁ、こんな流れです。
何度も言いますが、言わんとすることはとっても!よくわかる。
でも「なんか違うぞ」感も多分に漂うアリエフ・コルパコワ版海賊ではありますが、あの手の施しようのない作品をきれいにまとめた、という大いなる挑戦にはやはり拍手を送りたいし、敬意を表したい。

さらに谷の男性陣が迫力でパワフルでしたし、ここの男性はでかいのでこういう演目では見栄えがします(何年か前のバレエの饗宴のときの「韃靼人の踊り」はすごかった)。
パシャも熱演でしたし、メドーラの永橋さんも非常に品があってよかった。
ギュリナーラもおそらくコンラッドに次いで違ったキャラではないかと思うのですが、いい解釈でしたね。
こういうギュリナーラは結構好きです。
そして何より谷の男性プリンシパル3人衆がすばらしかったですし、若い芸術監督の感性が、この歴史のあるバレエ団をこれからどういう形で率いていくのか、なかなか興味深くも思えました。

それにしても「海賊」、やっぱり難しいのだなぁ……。
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by kababon_s | 2015-04-04 03:26 | Ballet

ミハイロフスキー劇場バレエ団「海賊」:野郎がかっこよければそれでよし!

1月8日、ミハイロフスキー劇場バレエ団(旧レニングラード国立バレエ)の「海賊」@東京文化会館を見てきました。
今年の初バレエでした。
このミハイロフスキー、以前は年末年始にかけて、超激メジャーバレエを引っ提げて公演を続けていたバレエ団ですが、監督がドゥアトに変わり方向転換を図ってからとんと来なくなりました。
ですから今回は実に久々の来日公演ですが、でもドゥアトらしい作品をひっさげて…というわけではないというのもあってか、会場が残念なくらいガラガラ。

とはいえ個人的には「海賊」は好きです。
特に今回のキャストはコンラッドがルジマトフ、アリがサラファーノフと、私的には実に楽しみでしたね。
なによりミハイロフスキーに移ってからの生サラファーノフ全幕は見なきゃいかん、見たいぞ!というファン心です(笑)

だから海賊はちょうどいい演目でした。
もちろんストーリーは通じているようで破綻しているし、そもそもバイロン原作なんて言っていいのかってくらいハチャメチャだし、とにかくいろいろオカシくて、突っ込み始めたらきりがない。
意味はあるけど意味不明なコールドは衣装がフレンチカンカンでも違和感ないぞ的異世界音楽だし、原典をほじくり返すのも不可能だし、ほじくり返したら一層わけがわからなくなりそうな舞台なのに、それはそれでまとまっている。
実に摩訶不思議です。

それでもついつい「海賊」と聞くと見に行ってしまうのは、ひとえに野郎がかっこよく、キャラがたっているからで、だからこそキレイに踊るだけでなく、キャラのなりきり度が高ければ高いほど盛り上がる。
また組み合わせや配役によってガラっと雰囲気が変わるし。

そういう意味では今回のミハイロフスキーの海賊(言い遅れたが改訂はルジマトフ)は実に面白かった!

ますます異次元で孤高のオーラ炸裂のルジマトフ・コンラッドがすごいこと!
そこに男っぽさ貫禄も加わり、存在感と独特のキエフの太陽、オヒサマ的ボクちゃん個性がますます楽しいサラファーノフ・アリを筆頭に、狡猾そうなランケデム、最初から俺様丸出しで乗っ取る気満々(に見える)ビルバント(しかもイケメン)、まん丸で鞠が跳ねてるようなキュートなパシャ、プチまん丸のおネェっぽいパシャのお付きの2人組とか結構濃い。
ルジマトフ改訂故か、市場では男性奴隷の踊りもついている。
こりゃ楽しいだろう。

あってなきストーリーだから展開も早く、メドーラとコンラッドの出会いも目と目を見合わせた…と思ったらもう奴隷商人登場、あっと言う間に市場で気づいたら洞窟のアジトでピストルの踊りとか、余韻もへったくれもない(笑)
しかもメドーラがその他大勢と同じギリシア風衣装でギュリナーラがど派手な緑色の衣装なものだから、これ初めて見たらギュリナーラが主演かと誤解しそう。

でもそんな余韻抜きの展開とはいえ、それでも「みんなを国に返して」と懇願するメドーラに対するコンラッドの間、「バカなこと言ってんじゃねぇぜお頭!」とばかりにビルバントに詰め寄られしばし考えるコンラッドの間に、「そうか、ここで娘たちを国に返さなかったら一層禍根が残るかもなぁ」と、物語的なものを感じてしまったのですが(^_^;)

そして寝室でのメドーラとコンラッドのパドドゥで、メドーラと2人で大海原に向かって手を広げるところでは、「そうか、コンラッドの夢、生きざまってこれか」なんて妙に感心してしまったんですが(^_^;)
つまりメドーラにホレてしまった色ボケ「だけ」のコンラッドではなかったのだな、と思ったり。
ロマンか?
なけなしの、原作・バイロンのロマンか!?(←多分違う)

そのルジマトフ。

言わずと知れたもうアリといえばルジマトフ、というくらい、この海賊という演目では伝説のダンサーですが、コンラッドも実にいい。
というかもう存在感や放つオーラが本当にこの人だけのもので、どうしても目がそちらに行きます。
吸引力というのか、文字通り吸い寄せられる。
しかも悪党っぽいワイルドなコンラッドです。
海賊の親分だ。
以前、だいぶ前にルジマトフ主演の「ラスプーチン」を観ましたが、この怪僧的なキャラがやっぱりこの人の素の姿に近いのかなぁと改めて思ったり。
断っておくと、私は特にルジマトフのファンというわけではないのですが、実に孤高のダンサーで人としてのキャラが興味深すぎるのです。

キャラができあがっていて、この人は「ルジマトフ」だろう絶対、というものがある。
それでいて、このお話の中ではコンラッド。
でもルジマトフ。
いやぁ、早々お目にかかれないと思います、こういう人は。

そして久々のサラファーノフ。
今にして思えば、ルジマトフとは全く正反対の、キャラ濃いだろう同士の競演が、実にうまくかみ合っていたのでは、と思われます。
サラファーノフが大人だったか??(笑)
細かい演技に大技はばっちり決めてきてまったくぶれないのがすごい。
というかますます磨きがかかっている。
すごい人だ。

繰り返しますが、私はサラファーノフ大好きなんですが、多分一緒に持ってきたジゼルのアルブレヒトを見たらどうしても笑ってしまって「ジゼル」がぜんぜん別物になりそうだったので、今回は海賊一本に絞りました。
この人は妙な笑いのツボを突かれて困るのです。
ホントに好きなんですけど(笑)

ともかく。
やっぱりノーブルさもあり奴隷に見えないけど、でも彼のアリはいいです。
コンラッドに忠実です。
てかコンラッドの親友のようなアリだ。

お嬢様のようなギュリナーラはパシャに売り飛ばされてからちゃっかりその生活でお姫様のように暮らしていて、派手好き、お嬢様性格という位置付けだったのでしょうか。
最後はちゃっかりアリの彼女然として脱走して、メドーラ&コンラッド、ギュリナーラ&アリの船出……はずだったんですが、残念ながら船が何かに引っかかってしまったのか、出ませんでした。

なもんで、最後は男性群舞による海賊踊りで幕。
初めて見た人には「??」だったのではと心配しますが、でもまあこのはちゃめちゃ加減も海賊らしくていいです。
細かいことは気にするな、もともと破綻しているんだから。
野郎がかっこよければすべてよし、だ。
以上。
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by kababon_s | 2015-02-07 03:06 | Ballet

CLOWD/CROWD:CROWDはCLOWDな宇宙の素粒子運動

今更極まりないですが(でももっと今更もまだある)、あげておくのは自分のための記録です(^-^;


8月31日、JAPON DANCE PROJECTのCLOWD/CROWD。
モナコ、マルセイユ、スウェーデンなど欧州で踊る5人の日本人ダンサーによるユニットの公演です。
そして今回は新国立劇場バレエ団から小野絢子、米沢唯、八幡顕光をのお三方をはじめとするゲストが参加して、総勢11人によるダンス公演でした。

実にエネルギッシュで面白かったですね。

事前のWebでのトーク番組を見ましたが、踊りを「言語」とする言葉が何度も語られているのが印象的でした。
つまり主要5人のメンバーがそれぞれモナコやマルセイユ等々で培った経験や個性など、踊りの表現からなる「言語」をぶつけ合い、作り出す世界ですね。

そこに今もクラシックを踊るバレエダンサーが加わり起こる化学反応が非常に楽しみでしたが、まさにCROWDといいますか。

舞台はCLOWD――雲を模した布が天井から掲げられ、それが形を変えながら仕切になったり背景になったり。
1部冒頭、小尻健太さんと一緒に飛び出してきた唯ちゃんに目を奪われます。
彼女の視線はいつも見えない何かを見ているようです。
すごく遠くの何か、誰かを見つめていて、思わずその視線の先の後ろを振り返りたくなる衝動に駆られるんですが、小尻さんとのスピーディーな動きに今度は視線を奪われる。
そこからは次々と現れるダンサーさんたちの踊りの世界にぐいぐいと引き込まれます。
唯ちゃん、絢子さんもすごいと思っていたけど、小池ミモザさんの貫禄のすごいこと!
ミモザ姐御と呼びたくなるパワーと存在感たるや。

ポワントを履いた女性の踊りあり、男性たちのスピーディー&パワフルな踊りありで、エネルギー運動の掛け合いのようです。
クライマックスの11人全員のカクカクと動きながら交差し、離れていく動きは雲の中の素粒子運動であり、雑踏のCROWDでもあり。

1部が終わって八幡君が一人舞台上に立ち尽くしていたんですが、これが実は休憩の間ずーっとそのままという(笑)
八幡君は背中で語る人ですねぇ。

2部が始まりその八幡君がクラシックマシーンというのか、頭、肩、腕を触るとクラシックのバリエーションが流れるという、青柳さんお得意のバレエコント的な仕掛けでしょうか。
このユニット結成のきっかけも、震災の年から2回ほど行われたオールニッポンバレエガラだったとか。
あのガラのLilyがその大元だったそうです。
なるほど。

八幡君が退場した後の2部は主要5人のメンバーによる舞台。

1部の途中から途中から考えるのをやめて、ただただ発するエネルギーになぶられるように見ていましたが、実に心地よい。
雲だった幕が背景となり、その表側と裏側での動きが幕をゆらして、音の波が立っているよう。
水に雨粒が落ちるときの波紋というのか。
視覚的にもなんだか楽しい。

「堕天使が空から落ちて来ましたー!」という日本語の叫びをミモザ姐さんが投げやりなフランス語で訳するところがなんかおかしいのですが、「言葉」もまたダンスの言語のひとつでありましょうか。
堕天使って、最初から墜ちてるだろ、なんて一瞬野暮なつっこみを入れそうになりましたが、それはまあよし。
ともかく彼らは実に自由です。

ラストに使われたのが「僕たちの失敗」、昔のドラマ「高校教師」のテーマ。
世代ネタというのは5人の「世代」の共通言語なのでしょうか。
トレンディ時代の末期の曲は、なんだかノスタルジックです。
幕が開いて6人の若手も登場するが、彼らはこの曲知らないでしょうね、きっと(^_^;)

とにかく縦横無尽に動き回る素粒子のようなエネルギーを存分に味わった公演でした。
これは毎夏の定番にして欲しいと思います。
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by kababon_s | 2014-10-27 02:23 | Ballet

マシュー・ボーン「白鳥の湖」:キャストの数だけ変わる世界

今更ながらマシュー・ボーン版「白鳥の湖」について(公式サイト)。

実は今回の公演が初見。
存在は知っていたが、出張と重なったりでなかなか機会がなく、今回やっと見られたというもの。
だから書くことは、何度も見た方は今更的な内容になるのはご容赦、ということで。
まあ舞台は上演された瞬間、観客の数だけ存在するから、そのうちの勝手な一つです。

ともかく。

2回で止めておくつもりが、結局4回見てしまったのだ。
おそろしや(財布もおそろしや)。
キャスト違いで雰囲気が変わるのはあることだが、このボーン版の「白鳥の湖」はストーリーの骨子も踊りもメイン以外のキャストが同じでも、ザ・スワンと王子の組み合わせが変わるだけで、世界観も含めここまで違ってしまうのかと驚かされる、本当に。

今回見たのはザ・スワン、王子の順で以下の通り。
9月9日 マルセロ・ゴメス&クリストファー・マーニー
10日 クリス・トレンフィールド&クリストファー・マーニー
20日(前楽) マルセロ・ゴメス&クリストファー・マーニー(両者の楽)
21日(千秋楽) クリス・トレンフィールド&サイモン・ウィリアムズ

本当にざっくりと、相当ざっくりと、自分が感じた印象で、ストーリーを述べれば(知ってる方はスルーで)、ボーン版は主人公・王子の心理描写に焦点を当ててぐっと深く掘り下げたもの。
だからオデット・オディールに当たるザ・スワンとストレンジャー(二役)、そして白鳥の群は男性が踊る。

舞台を現代の王室(英国風)に置き換え、機械的で無機質な日常、おそらく未亡人の王妃から十分な愛情を得られずに育った孤独な感情を抱えた王子の心の闇が描かれる。
寂しさを紛らわそうとバーに行けばパパラッチにシュートされ行き場もなく、思い詰めて湖に投身自殺をはかろうとしたところに現れるのがザ・スワン。
このスワンが幻想の産物なのか実在の、リアルに白鳥なのかその正体はそれぞれのダンサー、あるいは見る者によって解釈が変わってくるところだと思う。
明確な解答が一番ない部分かと。

とにかくそのスワンとの魂の交歓のようなひとときを過ごし、王子は生きる気力を取り戻す。

3幕、各国のお客を呼んでの宴だが、そこに現れるのがザ・スワンそっくりのストレンジャー。
女たちの心を一瞬で虜にして、王妃までも落とす。
美しい、生きる気力を取り戻させてくれたあの一時が無惨に打ち砕かれ、極度の絶望で王子は錯乱、幽閉される(あるいは精神病棟に入れられる)。

幽閉された個室に「白鳥」たちが現れるが、彼らは王子とザ・スワンに襲い掛かってくる。
襲ってくる白鳥たちが破れた夢が形を変えたものなのか、白鳥の姿をした黒鳥なのか、それは解釈次第だが、そのなかで唯一、ザ・スワンだけがぼろぼろに傷つきながらも自分を守ってくれる、あるいは自分に寄り添ってくれる。
王子とザ・スワンはともに「白鳥たち」に抵抗するものの、スワンは消滅し、王子も息絶える。
二人の魂は一つになって天に還る。
以上。

何度も言うが、このバージョンが初見だから、その前のバージョンや改訂された部分は知らない。

そのうえで。
このバージョンを見た限りでは、どの回を見てもスワン、そして白鳥は「…のようなもの」に感じられた。
白鳥の姿をした白鳥じゃない何か、あるいは便宜上「白鳥」といっている何か、というのか。
王子の心の写し鏡でもあり、パンドラの箱の一番最後に残っていたもののようにも感じる。

また舞台衣装は白と黒。
王子のいる世界は白であり黒だが、白さえも王子にとっては重荷であり圧力でしかない。
ボーンのすごいところは白黒を明確な善悪ではなく、一つの世界のなかの両極としているところで、白も善悪の中にあり、黒もまた善悪のなかにあり、どちらが善でも悪でもない、と捉えられること。
キャストによってはコインの裏表のようにも思えるが、とにかく短絡的な白=善、黒=悪ではない。

色彩があるのは王妃の紫、赤、そして1幕、2幕のガールフレンドのピンク、そしてスワンク・バーのテラテラな極彩色。
王子にとって色彩世界は異世界、王妃の色彩は「届かないもの」「得られない愛情」か。
ガールフレンドは謎の生きものだ。

しかしこのガールフレンドが3幕以降王子の世界の黒となり、錯乱した王子を止めようとして死んでいくのは実に象徴的。
ひょっとしたら、彼女が一番王子のそばにいたかもしれない…と思わせるダンサーがお見事としか言いようがない。
このガールフレンドは4回とも同じ人だったが、金髪の、およそバレエダンサーとは思えないふくよかな体型。
頭悪そう、育ち悪そう、品が悪そう、でも気だてだけはすごくいい(ように思える)子なのだが、日に日にチャーミングになっていくからすごい。
実にいいキャラだった。

あとはその回によって見えた世界が違うので、個別に。

●9日:異形のものと魑魅魍魎の宴

マルセロ・ゴメスの初スワン。
そしてこちらも初ボーンだったので、とにかく「すごいもの見た」感でただただ圧倒される。
力強く、でも時には優しく、圧倒的な存在のゴメス・ザ・スワン。
超熱演。
一言で言えば「異形のもの」か。
スワンと呼ばれているが、やはり異形、というのが自分的には一番しっくりくる。

2幕湖の男性白鳥たちはスピーディーで力強く、白い人魂が舞っているかのようだが、この時点ですでにゴメス・ザ・スワンが「白鳥」のなかにあってすでに異質。
スワン「だけ」が王子の友であり、白鳥の群は、たとえばムソルグスキーの禿げ山の魑魅魍魎というのか、白とはいえども恐ろしきもののように思える。
あるいはゴメスが初スワンだっただけに、まだアンサンブルに馴染み切っていないだけだったのか?

ともかく「白」も美しいものであるが美しさよりは重圧の方が勝る王子のメンタルがひしひしと感じられる、狂気も併せ持った2幕。
でもザ・スワンにひとかけらの希望を見いだす王子、という感じ。

ゴメス主演で圧倒されたのは特に3幕のストレンジャー。
もうセクシーでフェロモン炸裂で現れた瞬間心臓バクバク(笑)
ストレンジャーが王妃を含めたパーティー会場の女性たちを次々落としていく顛末の、まあなんと説得力のあることか。
一緒に落とされてる気分(笑)
それと同時に王子がどんどん追いつめられていく様が見ていて苦しい。
「もうやめて~」と何度思ったかわからない。

4幕のゴメス・ザ・スワンはまさにパンドラの箱の、最後に残っていたもののよう。
はかない希望が押しつぶされて、昇天していく王子が哀しい。
ただただ圧倒されて帰宅。

●10日:最初からこころの病の世界と身の丈のスワン

クリス&クリスのスワンと王子。
スワン以外の主要キャストは9日と同じなのに、まったく違う世界。
とにかく幕が開いた瞬間から王子はすでに病んでいる。
現実と病んだ精神状態との境目がない。
9日の王子はまだ現実に片足かかっていた感じだったのだが、この日は病んだ王子の精神状態のなかで舞台が進む。
舞台の上の世界も、病んだ王子のフィルターを通して見える世界だ。

クリス・ザ・スワンは細身で繊細そうで動きがとても軽く、精霊のよう。
王子の今にも切れそうな心のようでもあり、圧倒的な力やカリスマ性はない分、身の丈で寄り添ってくれる感じがとても優しい。

その分どうしてもストレンジャーでは弱くなってしまう感じは否めないが(特に前日ゴメスを見ているだけに)、女性たちに投げる視線は時々ドキっとする。
4幕、クリス・ザ・スワンはいよいよ錯乱した王子のなけなしの理性という感じで痛々しい。
自分で脱却する術はないのか、やはり己の繊細な心に殉じるしか顛末はないのか…。
クリス・スワンは分身のように思えるだけに、なんだか切ない。

●20日:圧巻のゴメス&クリス

前楽でありゴメス&クリスの楽。
このペアは初日と楽を見たことになるが、進化の度合いがすごかった。
ゴメスがこなれてまた最後ゆえ全身全霊で踊っている。
なんていい人なんだ。
しかも熱い。
存在感がすごい。
そしてやはりゴメス&クリスの世界の王子は現実世界からどんどん破綻へと向かっていく。

2幕の白鳥の群はやはり魑魅魍魎的ではあるものの、初日のような分離感はなかった。
その分、ゴメス・ザ・スワンが王子の「そうありたい」と願う一番大事な思いの象徴が形になって現れた存在のように感じる。

だからそうなると3幕のストレンジャーが悲痛。
「そうなりたい」と思う現実を体現するストレンジャーが、なんというのか「いや、そこまでしなくてもいいんだ」という部分まで赤裸々に王子に見せつける。
それともきれいなままで理想には辿り着けない、とでも言っているのだろうか。
白から黒の1本線上にある、黒か。
唸る。
「なんでだ、俺がやってるのはお前が望んでることじゃないか」と言わんばかりのストレンジャーの、とにかくいちいち台詞が聞こえてきそうな踊りにはこちらはただ圧倒されるのみ。
パドドゥはもう「オレハオマエダ、オマエハオレダ、オレハ…(以下無限ループ)」
やはりゴメス&クリスの王子はどんどん追いつめられ、壊れていく。

4幕、光と陰の演出効果で、もう黒の部分が王子の心を覆い尽くしているよう。
唯一の「白」の存在であるゴメス・ザ・スワンはゴメスのいい人キャラ炸裂。
やはりゴメスのスワンはパンドラの箱の、最後に残っていたものか…。

●21日:ただ、切なくいとおしい世界

初見ペアのクリス&サイモン。
これが実にすばらしかった。
個人的なフィルターが一番かかった、思い等々一切合切含めて一番琴線に触れたのがこのペア。
人生で出会わなければならない必然の舞台だったと思える舞台は初めてかもしれない。
舞台の上の王子やスワンや王妃もガールフレンドも、登場人物すべてが、また逝ってしまった人たち、残され静かに生きる人たち、これから生きる子たち、寄り添い見守る人たち……みんなみんな、いとおしいと思えた。

体格ががっしり、そしてややプヨり気味のサイモン王子は、敢えて現実的な言い方をするなら自閉症気味の、周囲の重圧だけを背負い、自分の思いを伝える術を知らない(できない)タイプというのか。
現実と自身の折り合いがつけられず、つけることができず、わかってもらえず、「だめな子」レッテルを貼られ、かといってどう伝えていいかもわからない苦しみを抱えているような子だ。
でも「王子」たる現実の、世界で一番重いもののひとつたる責任だけはのしかかってくるのだ。
これは苦しい。

王妃も(おそらく)旦那亡き後、この「困った子」を立派な王に育て上げること「だけ」が使命という、頑なな信念の元に生きている。
だからあえて王子に厳しく接する。
ただただ「立派な王になって欲しい」という彼女なりの愛情だ。
愛情の方向がかみ合わない。
これは不幸だ。

そこに現れるクリス・ザ・スワンは線が細く軽いからこそ、王子の分身のような、自由に、こうありたいと願う王子の、一番美しく、繊細な心の写し身のよう。
このはかなげな繊細さはクリスならではだと思う。
湖での2人のパドドゥは本当に王子の身体からスワンが抜けだし、現れてくるようだった。

2人の一体感が切なく、やさしく、美しい。
多くは望んでいない。
本当にささやかな願いだからこそ、美しくて、泣ける。
もうこのキャストは2幕あたりから泣き通しで、最後まで大変だった。

ストレンジャーは確かにゴメスの圧倒的なフェロモン炸裂に比べれば、クリスは弱いだろう。
でもクリスが舞ったそのあとの空気は、なんというのか、色が変わるというのか。
空気を操るような踊り、というのか。
「舞う」という見えない力で居並ぶ女性たちを虜にしていく。
これがまた妖しい。
ストレンジャーと踊る王妃には、彼女もまた責任と重圧を背負い、孤独で辛く、女としてのよりどころがほしいのだという内面が見て取れて、また切なくなる。

4幕、黒に押しつぶされていく王子がただただ、悲しい。
そしてそれでも王子に寄り添う、王子と優しきザ・スワンの一体感は、弱々しいながらもこの世に自身を繋ぎ止める最後の糸のよう。
必死に最後まで生きようとして互いから目を逸らさず、最後まで一体であろうする、あがき、もがき、しかし敢え無く息絶える…絶えなきゃならなかったのか…。
…やるせない。

そしてラストシーンの、一人の母親たる王妃がまた悲しい。
王妃は4回とも同じ人なのに、この日の王妃が一番悲しく、内に秘めた、出すに出せない愛情が感じられた。
これがボーン版の妙でありすごさか。

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というわけで。
今回はジョナサンのザ・スワンを見損ねたことだけが心残り。
また来日することがあったら、ぜひまた違うバージョンで見たい、ということで。

長々とおつきあい、ありがとうございました。
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by kababon_s | 2014-10-04 20:05 | Ballet

お教室バレエ発表会2種:王子詣でで札幌&宇都宮

恒例となりつつある夏のあつじー王子詣でです。
今回は札幌と宇都宮に遠征。
1年ぶりに見た厚地王子はよりエレガントに、王子オーラもますます輝かしくなっておりました。
ビントレー監督が辞める1年前という、あのタイミングでバーミンガムに戻って本当によかったなぁと思いますし、そうしたタイミングを逃さない嗅覚センスもまた実力のうちでしょうか。
また今回、なかなか見る機会のないゲストの方との共演も含め、実に面白い遠征でした。

●札幌:久富淑子バレエ研究所 60周年記念定期発表会

7月12日、札幌市教育文化会館 大ホール。
あの熊川さんの出身お教室ということで、おそらく札幌方面では一番大きなお教室と見受けました。
ゲストは厚地君、元英国ノーザンバレエシアターの雨森さん以外はすべてお教室の出身者で、元Kで新国立劇場バレエ団の輪島さん、Kバレエの宮尾さん、ノーザンバレエシアターの高橋宏尚さん等々、豪華な共演です。
さらにお教室の発表会だっていうのに5000円という「いっちょまえな」(←同行者談&同意)チケット代を取るというところも豪気です(内地は無料が一般的。有料にしてももっと安い)。

あつじーファン的においしかったのは出番の多さ。
2部の「くるみ割り人形」のお客役では優雅にフロックコートで登場。
雪の場面では白く輝く雪の王。
アラビアでは「アラジン」のルビーを思い出すようなスマートで色っぽい踊り。
フィナーレは黒の上下で颯爽&シックに登場です。
いやいや、存在感が違います。
意識しなくてもどこにいたって目を引きますし、物腰がエレガントですね。
間違いなくレベルアップしていますし、やはり新国で王子を踊った経験は絶対に必要だったんだと思わせられます。

ドロッセルマイヤーが宮尾さんなんですが、お子様たちの中にあってはこの方もおっさんなんだなぁと(笑)

金平糖の王子が輪島さんという、おそらく新国ではひょっとしたらもう見られないかもな王子だと思うのですが。

お教室だから仕方ない…と思えど、「いっちょまえな」5000円というチケット代を取っているから、あえて言わせていただきますが。
無料の公演、あるいはお金取ってもちゃんと踊れる生徒さんなら何も言いませんが…。
なんというか、「大人の事情」を金取られて見せつけられたというのか。
要は金平糖は生徒さんではなく、せめて先生にするべきでしたよね、ということです。
ちゃんと踊れる生徒さんは他にも何人かいたのに。
ゲストにも客にも失礼ってレベル以前の問題でした。

ともかく、お相手する輪島さんは卒業生の宿命とはいえ気の毒で、どんだけビンボー籤引いたんだと涙が出る思いで、とにかくケガだけはしないでくれろと祈るばかり。
無事にすんで、本当によかった…(T_T)

気を取り直して。
この公演で、ずっと気になってるノーザンバレエシアターの高橋さん&雨森さんがデビット・ニクソンの作品を踊ってくれたのは、私的には非常に思いもよらず幸運な出来事でもありました。

ガーシュウィンの「Man I Love」に乗せたパドドゥだったのですが、やはり一筋縄ではいかない振付家だと感じました、ニクソン。
こういう言い方がいいのかどうかわかりませんが、わかりやすく伝えようとするなら「英国北方のエイフマン」というのでしょうか。
エイフマンから泥臭さを抜いた英国流というのか。
動きはクラシックバレエをベースにしつつも、コンテンポラリーを多分に取り入れ、シャープでスピード感がありかつエレガントでムーディー。
おそらく「ニクソン流」ともいえる言語があるのではなかろうか。
「英国の伝統」ともいえるドラマ性も感じられる。
踊り手にはおそらくすごい身体能力が求められているのではと思います。

●宇都宮:石原千代バレエスクール創立25周年記念発表会

7月27日、栃木県総合文化センター メインホール(入場無料)。
あつじー王子の出身校です。
ゲストにはバーミンガムの佐久間奈緒さん、アクリバレエのアクリ親子、加藤静流君等々、錚々たる方々がずらり。
先の札幌もそうですが、何百人という生徒のなかから一人でも世界に羽ばたいた生徒がでるということが、お教室にとってどれほど大きな財産をもたらすか、その典型的な例を目の当たりにした気分です。
しかも男のダンサーで大きく成長した人が出ると、続く未来の王子たる男の子たちのモチベーションや目の色が全然違うのですね。
ボーイズたちが実に生き生きと踊っているのは、見ている方も楽しいですし「目指せ!未来の王子様!」と応援したくなります。

その大いなる先駆者、宇都宮から羽ばたいた世界の王子・あつじーは金平糖の王子、そして「二羽の鳩」で登場です。
「二羽の鳩」ですよ!
オールニッポンバレエガラ再び!
相手は佐久間さん。
この演目がまた見られるというだけでもう、宇都宮まで出かけて行った甲斐があるというものです。

おそらくこの「二羽の鳩」、抜粋の最後のパドドゥの部分だけとはいえ、あつじーの当たり役ではないでしょうか。
二人とも気持ち入りまくりで、それまでの二人の楽しかった恋人時代、出奔して後悔し、何が大切かを気づいた男、許そうかどうしようか戸惑う娘とゆっくり和解し溶け合っていく二人の気持ちがひしひしと伝わってきて、感涙ものでした。
まちがいなく、代表作の一つと言っていいと思うのです。

金平糖の王子はもう貫禄。
新国で初めて王子を踊った頃が思わず頭をよぎりましたが、実に輝かしい、たくましくも優しく美しい、頼もしい王子です。
あつじー、バーミンガムで頑張っているんだなぁというのが伝わってきます。

脇を固めるドロッセルマイヤーのアクリさんはじめ、お教室のクオリティを超えた楽しさでした。
ツボったのは衣装を変えたら土建屋系のガテンなおっさんで、上野のアーケード下で焼き鳥食べてても全然違和感ないぞ的な男性が一人いらして、実に目立つのです、その風体で。
そのガテンさん(笑)がクララのパパだったんですが、そのままくるみ割りの2部でスペインも踊ってたんですね。
どうしてもパパがスペインやってる、と見えてしまう。

さらにダメ押しに、このバージョンは最後、クララをママだけが(夜会服のまま)起こしにくるという演出なんですが、その光景を見ながらどうしても「そして実は、パパも夢の世界の住人だったのです」という脳内補足をつけたくなるのですね。
新説くるみ割り人形かw
最後に突っ込みどころがあって、実はこれでしばらく楽しんでもいます。

いずれしにしても力の入った石原公演でした。
あつじー王子が踊る限り、多分里帰り的に毎年参加でしょうから、これは夏の行事として定番になりそうです。
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by kababon_s | 2014-08-08 23:21 | Ballet

エトワールガラBプロ:挑戦的に、パリオペ

引き続き、エトワールガラBプロです。
8月2日、文化村オーチャードホールにて。

以前、エトワールガラのプロモーション動画だか何かで座長のバンジャマン・ペッシュが「本国ではできない、こうしたガラならではのプログラムをお見せしたい」というようなことを言っていたと記憶していましたが、そういう意味ではAプロはある意味普通といえば普通のガラ(しかもハンブルク組がパワフル)。
対してBプロは部分的に挑戦的なプログラムを組んできたかなぁと思います。

それが2部の「牧神の午後」2連荘でしょうか。

振り付け家の違う牧神を連続で。
これはなかなか面白かったです。

1つ目がデフォルトといえるニジンスキー版の「牧神の午後」。
座長ペッシュとニンフがローラ・エケ。
ニンフ1人きりですが、ちゃんとセットも持ってきているのがすごい。

バンジャマン、大あくびしたり、飄々としているようで、表情から目が離せない牧神です。
あの牧神独特の静止ポーズもいちいち彼ならではの味わいというのか、なんだか今まで見た牧神のなかでは、エロいというよりは一番変態さん度が高かったかも。

続いてロビンス振り付けの「牧神の午後」。
バレエスタジオに横たわる男性ダンサーが、エルヴェ・モローなんですが、けだるくてナルシスティックで、これが実に美しい。

一人でスタジオで踊る、その外から女性ダンサー(アマンディーヌ・アルビッソン)が訪れ、共に踊るのですが目を合わせるのは最後の瞬間だけ。
創作者の白昼夢に一瞬降りてきたミューズのような、そんなけだるさです。
触れたら消えてしまった、しゃぼん玉のような夢です。
エルヴェが美しくてため息もの。
同じ音楽が続いたことも全然気にならないのはさすが、というべきでしょうか。
いいですね、ロビンス版。

エルヴェは同じくアルビッソンとともに「こうもり」のパドドゥも踊りましたが、これがまた実にしっとりとしたエレガントさ。
こういう大人の洒落た世界は、パリ・オペラ座は本当にいい感じです。

個人的にツボったのはシェリ。
プティの作品で、プログラムによるとほろ苦い恋の場面、ということですが、サテンだかベルベット風だか、とにかくテラテラシーツのベッドがなまめかしい。
ドレスアップしたイザベル・シアラヴォラに対し、男性ガニオ君が下着のシャツ&パンツに靴下革靴というどうしたって笑っちゃう素っ頓狂な格好。
シャツに下着パンツに靴下ですからもう、やる気満々ですわ。

こういう奇妙な姿を舞台衣装としてしまうのがプティらしいし、これがおしゃれさ+コケティッシュになってしまうのも実にフランスらしいし、それでも品のある舞台になるのがパリ・オペらしい。
そしてこういう姿でも様になってしまうのはイケメン・ガニオ君ならではでしょうか。
実にいろいろフランスらしく、フランスのブランド力ってやっぱりすごいなぁとか、全然方向違いのことも考えてしまうのですが。

とまれ、「シェリ」は年上の女と若い恋人の場面。
女はやはり自分の年に悩んだりするのですが、ガニオ君が無邪気です。
最後、ようやくベッドに腰掛けたイザベル様の膝に「ばしゅっ!」と効果音が付きそうな勢いで駆け寄る姿がまた仔ワンコのようでした(笑)

1部開幕の「眠れる森の美女」スペシャルはローズアダージョのドロテのバランスがウルトラスペシャル。
4人の王子がパリ・オペラ座の面々+Kバレエの男の子(なんとすばらしい経験!)とまあ豪華。
衣装もしっかり持ってきたんですね。
どこかの酋長のような羽帽子のバンジャマンがさりげに怪しいです。

1幕のオーロラのヴァリエーションがエケ。
2幕王子のヴァリエーションがオードリック・ベザールで、3幕のグラン・パドドゥがアルビッソンとガニオ君。

2幕のベザールは、ちょっと前回のブログでほめすぎたか(笑)、と思いましたが、ヌレエフ版はやり癖があるというのか、難しいのか、彼は古典よりコンテがいいのか、パートナーがいる方が世界観が広がるのか。

でも3部でドロテと踊った「アモヴェオ」はやっぱりAプロで見た片鱗がちゃんと見えたので一安心です。

アモヴェオ、なんだか見えざるもの、見えてはならぬものが見えているような視線と表情がすごいです。
ひきつけられて目が離せない。
SFの小作品みたいなイメージが浮かびますね。
ベザールはこれからも見ていたいダンサーさんです。

Aプロから素晴らしい踊り&世界を披露してくれているアッツォーニ&リアブコはこの日も「デジール」で、金子三勇士さんのピアノとともにため息ものの世界観を醸し出す三位一体の踊りです。

今回のエトワールガラ、こういう公演にプロのピアニストが入ることでいっそうすばらしい舞台になるという象徴のようです。
音が、音楽がちゃんと踊り手の感情に乗っていて、世界がいっそう深くなる。
ここでこういうのをやってしまうと、今後のガラでもしっかりしたピアニストを呼ばねば客はもう満足しないのではないか、と心配になるほどです。
もちろん、ちゃんと世界観をくみ取り、ダンサーと息を合わせることのできるピアニストさんじゃないとだめだと思いますが、金子さんは本当にお見事でした。
芸術家としても素晴らしいんだなぁ。
また彼のコンサートにも行きたいものです。

その金子さん、最後の「椿姫」のショパンも弾いてくれることになったのですが。

なんか若気炸裂暴走気味のアルマンっていうんでしょうかね。
よく言えば熱いんですが、悪くいえば何も考えず感情のままに暴走してるっていうのか。
そういうアルマンに合わせているせいなのか、すごい熱さ炸裂の暴走ショパン(苦笑)
こういうのはまぁ、普通の演奏会ではまず聴くことのないショパンかと思います。
まさにこの日の椿姫のためのショパンであって、そういう意味では珍しいものを聴いたと思いますが、椿姫としては、これでいいんでしょうかね(苦笑)

フィナーレのカーテンコールがマンボの曲なんですが、このマンボ(↓)にあわせて踊る牧神バンジャマンがちょっとインパクト大。

https://www.youtube.com/watch?v=7JWxNqyIRtk&feature=youtu.be


ガニオ君があの、シャツパンツに靴下のままだったのが笑えました。
Aプロではみなさん普通に動いていましたが、Bプロでは思い思いにポーズを付けて、なかなか楽しいフィナーレでした。
ダンサーさん達も楽しんでいたんだなぁ。

というわけで、このエトガラ、座長があと何回見られるかなぁ、というお歳と思いますが、続けてほしいものです。
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by kababon_s | 2014-08-08 01:32 | Ballet

エトワールガラAプロ:パリ・オペラ座×ハンブルクのエレガント

パリ・オペラ座のバンジャマン・ペッシュ座長はじめとするガラ公演です。
パリ・オペラ座のダンサーの方々にハンブルク・バレエ団などからの出演者もいる豪華な公演で、4年ぶり4回目だそう。
怪我人等々で出演者が変わり、演目が変わり…でしたが、まあこういうのはこのガラに限ったことじゃない。
それよりこういうガラの面白さは、こうした公演で初めて意識下に入ってくる方々がいたり、ガラでないと見られない演目もあったりすることです。
なによりやはりパリ・オペラ座の方々はやはり美しいし、パリオペならではの華というものは感じられる。
それに世界のトップクラスの方々は、ガラといえどもそれぞれが世界観を持って踊るから、作品一つひとつ、幕が開き降り、また開くたびに空気が変わる。
総じて満足な公演でした。

また今回ピアノ曲の演目で、ピアニストの金子三勇士さんが参加。
そしてその金子三勇士さんの演奏とのコラボレーションが実に素晴らしかったのですね。

彼の公演はここしばらくチケット買っては行けず…が続いていたので、今回ようやく聴けたのですが、やはり好きです、あの豪腕でリリカルという、正反対の要素が融合している音色が。
舞台上の演奏も終始ダンサーに寄り添い、彼らの心と呼応するかのような響きで、まさに踊りと音楽が一体となった世界にはぬくもりすら感じられる。

曲目は「3つの前奏曲」ではラフマニノフ。
ドビュッシーの「月の光」で、これで踊ったエルヴェ・モローの動きが実に幻想的で、この世のものじゃないような存在感。
残像が残るような動きひとつひとつが溜息ものでした。

そして「イン・ザ・ナイト」の、ショパンのノクターン4曲でしたが、これが踊りが醸す宇宙全てを包み込むような暖かさ、優しさ。
実に優しいムードに満ち溢れた夜の風景です。
静かな夜、3組のカップルの心模様やドラマが一瞬すれ違いまた、それぞれの世界に帰っていく。
ひとときの夢模様が丁寧な踊りと音楽とで優しく紡ぎだされていくのですね。
この「イン・ザ・ナイト」は踊るカップルによって全然雰囲気が変わるんですが、そこにさらにピアニストの世界が加わって、さらに宇宙が広がった感じ。
星の輝きにまで暖かな温度が感じられるようなそんな世界です。

こうした大人のエレガントな世界を醸し出すことにかけては、やっぱりパリ・オペラ座が素晴らしいなぁ。
思わず胸の熱くなるこの演目で、本当に幸せな気分で帰路に着けたと思います。
にしても、バンジャマンはあと何回見られるのかなぁ…。

感動的で圧倒され、さすが!と唸らずにいられなかったのはアッツォーニ&リアブコのマーラー3番とアルルの女。
とにかく登場時からすでにイっちゃってる、リアブコの狂気の視線に惹きつけられます。許嫁を想うアッツォーニの、最後の別れ(?)のシーンは愛情やら切なさやら言葉にならない思いが凝縮されたみたいに切ない。
そしてリアブコのソロ。
狂気の迫力。
抜粋とはいえ全幕見たくなる「アルルの女」でした。

また今回個人的に非常にツボったのが、プルミエールで参加のオードリック・ベザール。
数年前にジョシュア・オファルトが初参加してその名を観客に刻みつけ、今やエトワールとなりましたが、そんなジョシュアの初参加の頃が頭をよぎりました。

一番ツボにはまったのは彼の踊りが醸す「世界」というのでしょうか。

開幕一番のダイヤモンドが、「ダイヤモンド」に象徴される尊い女性に恋し、焦がれ、おそるおそる手を差し出しつつ思いを募らせる……という慕情があふれ出るような踊り。

「ダイヤモンド」の王子としては高貴であるべきなのかもしれません。
でも、ベザール王子が、ダイヤモンド役の、これまた清々しい高貴さの中に初々しさがにじむようなローラ・エケとともに紡ぐ物語は、とても響いてくるのです。
涼やかで透明な音が響きそうなローラのダイヤモンドもすてきでした。
透明な、ピュアな恋心です。

「ダイヤモンド」という作品自体が、「ジュエルズ」共々とても抽象的な踊りで、そういうものだと思っていたのですが、今回のガラで初めて「物語」を見た気がします。
何が完璧な「ダイヤモンド」か、というのはさておき、これはこれで、私はすごく好きな世界でした。
あのチャイコフスキーの「ポーランド」の音楽が今でも頭の中でリピートされています。

ベザール君は無から有の世界を作り出せる人なのではあるまいか。
彼が踊り、空気を動かすたびに物語の世界が醸し出されるようだなぁ、と強く思ったのが、2部でドロテと踊った「3つの前奏曲」でした。

バーを挟んで交わることのない、男女の微妙な距離間。
バーを取り払い、パドドゥを踊ることで徐々に近づいていく心。
そして近づきつつ、でも恐れつつ、しっとりと溶けていくような心が描き出されるようで、これもまた余韻がいつまでも残ります。

ベザール君、「3つの前奏曲」ではダイヤモンドとは打って変わって、体操選手のような肉体美を披露してくれたわけですが、この体つきといい、身長190cm越とかいろいろツボります。
次の来日公演の機会があったらぜひ来てほしいし、今後注目して見ていきたいダンサーさんですね。
椿姫のアルマンなんて見てみたいなぁ。

そしてもう一つ。
ガニオ君がすごくムード豊かで演技力も、こういっちゃなんですが、向上していたのか、ということに驚きとともに、ゴメンナサイという気分。
顔だけ…なんて思っててすいません。
てか、ここで進歩してくるのか―!
前回の「天井桟敷…」、どれも見られないからガニオ君のはパスしてしまったんですが、見ておけばよかったかなぁと、後悔ちらり。
いや、だってチケット高いから、全部見られるわけじゃないので、取捨選択しなきゃならないですよねぇ…(T_T)

というわけで。
次はBプロも行きます。
パリ・オペラ座はやっぱり好きです。
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by kababon_s | 2014-08-01 23:46 | Ballet

ハンガリー国立バレエ「トロイゲーム/ラ・シルフィード」:トロイ・リサーチ(笑)

5月23日、ハンガリー国立バレエ団(ハンガリー国立歌劇場/ブダペスト)で「トロイゲーム/ラ・シルフィード」のダブルビル(千秋楽)を観てきました。
ブダペストの国立歌劇場もといオペラ座はぜひ一度客として訪れたかったということ、またトロイゲームは新国立劇場バレエ団でも来シーズンのラインナップになっていることもあり、今回はリサーチ含め非常にいいタイミングでした。

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*ソワレにむけて準備中のオペラ座です。舞台の天井高がすごい。

●楽しんだ者勝ち「トロイゲーム」

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「トロイゲーム」は今回観た印象ではバレエでありパフォーマンスでもあり、というのか。
一つ強く感じたのは、ウンチクとか芸術とか細かいことを考えず、楽しんだ者勝ちってことです。

特に抑揚のある音楽でもないですから、ダンサーのチームワークと客席と対話するようなパフォーマンス力によるところが非常に大きいのでは。
人間ジャングルジムやファイティング、跳び比べ・力比べを、ダンサー達が楽しみながらお客を楽しませるプログラム、という印象を受けました。

その点ハンガリーのダンサーさん達は自己アピールがとても上手だし、表情豊かでお茶目だし、身体もしっかりしています。
マジャール人身体でかい。

客席も「おらが町のダンサーを応援するぞ!」的意欲満々で実によく笑うし、ご贔屓さんがビシっと決めれば拍手喝采で非常に楽しんでいるのがよくわかります。
実際にこのオペラ座、舞台と客席の距離がとても近いんですが、ダンサーとお客の距離もほんとに近いですね。
劇場空間の一体感がすごい。
衣装はどうしてもモンゴル相撲に見えて仕方がないのですが(笑)

果たしてこの演目を新国立劇場バレエ団でやったらどうなるんだろう。

新国男子が持ち前の仲良しっぷりを炸裂させ、漫才よろしくギャグを演じることができればひょっとしたら、新国ならではのトロイゲームになる…かもしれません。

テクニック的には地味に大変なことをしていますが、でも数々のハードな鬼振り付けをこなしてきた彼らなら何も心配はないと、これは確信しています。

問題は素晴らしくきれいだけどなーんか大人しい、という「新国的優等生」の、その一線を越えられるかどうか、かな??

ある意味大きな挑戦かもです。

優等生の殻を破ってギャグになりきり弾けられるか。
新国的優等生のままだったら、振り付けが振り付けだけに、また日本人はどうしても身体が華奢に見えてしまいますから、ともすれば中学校のマスゲームになっちゃうかも…。

なぜ新芸術監督はこの演目を選んだのか、やはりわかりません。
ただ「あ、この役マイレン的」「ここは八幡・福田ポジションかな」と思える部分はありましたので、まあ乞うご期待、というところでしょうか(笑)。

とにかくかしこまらず、ゆる~く楽しむつもりで観れば、モンゴル相撲の衣装共々笑いの止まらん舞台になるかもですよ。

ちなみにこの日のトロイゲームは日本人ダンサーの高橋ユウヤ君も出演していました(漢字がわかりません、すいません)。
ハンガリー人のなかにあって体格的に見劣りしない高橋君、結構身体は大きいのかも。
しかも基本の部分は誰よりも丁寧でした。
彼を見られて良かったなぁ。

●魔訶不思議な「ラ・シルフィード」

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これは実に摩訶不思議でした。
解釈の仕方が独特なのか表現がどストレートなのか、ともかくこのカンパニーの方々は素直で表情豊かです。

ジェームズ(Lagunov Jevegynij)とマッジ(Kerenyi Miklos David/男性です)がまぁ両方とも性格悪いこと(笑)
こんな不遜で態度でかくてふてぶてしいジェームズは初めてですし、ここまで執念深く底意地の悪いマッジもあまり見ないかも。
ジェームズ役のラグノフさんはイケメンなんですが、そのイケメンっぷりが不遜さをいっそう際だたせている。
マッジもアクションがでかくて、プライドの高い尊大っぷりがにじみ出ており、ちょっと機嫌を損ねさせただけで、100年どころか1000年呪われそうです。
一番迫力あったのはこのジェームズとマッジの掛け合いかもしれません。
なんか妙に火花が散ってて激しいのですわ、2人とも。

シルフィード(Balaban Cristina)はKYさと無邪気っぷりが小悪魔とはいわないけどやっぱり気まぐれな妖精で、でもなんか肉々しい存在感がある不思議なシルフィード。
でも「どっすん!」じゃないし、人間か?というと人間じゃない。
ハンガリー的妖精なんでしょうか????

グエン(Travillo Carlos)にしても、普通に友を思いエフィをあきらめられず、でもあきらめようとしているところに最後にお鉢が回ってラッキー!これを逃してなるものか、というしたたかさも見えて、とにかくキャラ付けが面白い。
ジェームズにしてもマッジにしても、シルフィードにしてもグエンにしても、不思議なアクの強さがあります。
アク…というのも正しい表現ではないのですが、でも邪魔ではない、これがマジャール的なのか…??と思えるものです。

ともかくそういう方々のなかにあって、エフィ(Pap Adrienn)があまりに普通で、それが却って健気で、とても可愛らしかったのですね。
幸せな結婚をして幸せになりたい、普通の娘です。
「幸せに結婚できて良かったね」と言えるエフィでした。

ともかく、明らかにブルノンヴィルのたおやかさ、繊細さとは別のところにある。
でも彼らが繊細じゃない、丁寧じゃない、というのとは違いますので誤解なきよう。
何と言ったらいいのかわかりませんが、これが彼らの味わいだと思うのです。
こんなの見たことないわ(笑)

果たしてこうしたキャラクターのなかでプリンシパルとして在籍している中村祥子さんがシルフィードを踊ったら一体どうなっていたのでしょう。
そう考えるとかなり興味がわいてきます。
この独特な(多分)マジャールテイストの方々と一緒にあの細身で踊ったら、日本で見るのとは違う、別の面が見えたでしょうか。
今回は中村さんの出演日程と全然合わなかったのですが、今度現地へ行く機会があったら彼女の踊りもぜひ見てみたいですね、こうなってくると。

いずれにしてもハンガリー国立バレエ団、オペラ座は歴史的にも由緒のある建物ですし、何よりチケットが破格の安さですから、機会があったらぜひ行ってみてください。
今回ロイヤルボックス(エリザベートとフランツ・ヨーゼフが座っていた席)の隣のボックスで観ましたが、もちろんこれが最高値席で、なんと5000円くらいでした。
オペラなら最高値7000円くらいです。
チケットはサイトで買えてプリントアウトして持っていけます。

●熱いぞ!ハンガリー国立バレエ団

せっかくなのでハンガリー国立バレエ団についても少し。

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今回関係者に少しだけお話を伺う機会があったんですが、非常にアグレッシブで、意欲的な熱意が感じられるバレエ団でした。
特に広報の兄さんが熱くて熱くて、ホントに熱くて、ほっといたらいつまでも語ってるんです(笑)

しかも公演の時も幕間でばったりお会いしたのですが、そのときもまた延々と語り始めちゃって、気が付いたら5分前のベルが鳴ってるとか、もう本当に熱い!
お兄さん、バレエ団もオペラ座もダンサーたちのことも大好きなんだなぁというのがヒシヒシと伝わってきます。
こんなに熱く意欲の高い広報がいるなんて、本当にうらやましく思います(ちょっと遠い目…)。

ともかくハンガリー国立バレエ団、2013年に就任したタマシュ・ソリモジ新芸術監督のもと「新しい空気」を入れ、古典、ネオクラシック、コンテンポラリー等々、幅広い作品を取りあげながらハンガリーならではのバレエ団を作ろう、上を目指していこう、という目標を掲げている。
(新芸術監督になる前から、このバレエ団はエイフマン等々、コンテンポラリー作品もかなりレパートリーにしていましたが)
芸術監督が決まるまで相当ごちゃごちゃした時期もあったようですし、また芸監不在の時期もあったとか、「一体どうやって公演ができたんだ??」と思うようなこともあり、「ようやく動き出した(出せた)」感もあるようです。

そういったポジティブな思いのせいなのか、とにかくこのバレエ団、空気が明るいのです。
すごく前向きなベクトルに満ちています。
行き詰まったり、なにか風通しの良くないカンパニーって舞台を見ていてもどよんとした辛気臭さとか、スポットライトが煌々と当たってるはずなのに暗さを感じたりたりするもんですが、ここではそういった空気は感じられませんでした。

だから細かい理屈や評価は一切抜きにして、観客として臨席する劇場空間がとても気持ちがいいし、先のトロイゲーム同様、お客との距離がとても近くて不思議な一体感、対話感がある。
もちろん全く問題がないわけはないでしょうが、本当に空気はよかったです。

ちなみにこちら、ハンガリー国立歌劇場のプロモーション動画。
なぜか中村祥子さん、宇宙飛行士になっています(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=camVVzjGheQ#t=21

でも目指すところは、伝わってくるようです。
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by kababon_s | 2014-06-07 23:28 | Ballet

牧阿佐美バレヱ団「三銃士」:「三銃士」から「三銃士」へと思いを馳せる

3月8日、9日と牧阿佐美バレヱ団「三銃士」を鑑賞。
9日はダンサーさんによるサイン会があり、当日のキャストだけでなく、Wキャストの方々も含めてずらりと登場するというファンサービスっぷり。
プログラムには「当たり」が入っていて、8日主演のプトロフのサイン入りポスターがもらえるというお楽しみ会もあり。
ダンサーさんたちは一舞台踊った後で相当お疲れとは思うのですが、でもこういうサービスはやっぱりうれしいですね。
牧はこの点は一生懸命で、いろいろ頭捻って工夫している感があって評価できます。

で、「三銃士」です。
バレエファンとして、また「三銃士」もとい「ダルタニャン物語」のヲタクとしては、本来願ったりかなったりの演目で、実は初演1993年と2010年公演を観ています。
だから「わかっている」(←含みあり)けど、でも「ひょっとしたら今回は…」と行ってしまうのであります。

はじめに言うと、「三銃士」は登場する男性キャラが多く、女性も高貴、娘、悪女と揃っている。
昨今男の子ダンサーの躍進著しいバレエ界を思うと、複数の男の子が楽しんで演じられる、男の子たちにチャンスを与えられるいい演目だと思うのです。
しかも田舎者のダルタニャンだからスラリとしたノーブルなイケメンより「小さくても元気があってよろしい」という男の子の方が断然似合うのです。
ノーブルなキャラもいるし、本来原作は非常にキャラ立ちまくりです。
実に男の子がよりどりみどりで楽しい作品だと思うのです。

というわけで、前置きが長くなりましたが、牧で上演している「三銃士」はアンドレイ・プロコフスキーの振り付け。
ストーリー的には全3部作「ダルタニャン物語」の第1部「三銃士」の部分のフランス王妃と敵国の英国宰相バッキンガム公爵との恋愛事件をからめた「王妃の首飾り事件だけ」を軸に、ダルタニャンと王妃の侍女コンスタンスの恋愛物語としています。

これは後ほども語りますが、初演時はその「王妃の困った恋愛」の結果起こった顛末、つまり「三銃士」というお話の最後まで上演されていたのですが、いつからかは調べないとわからないのですが、今ではばっさりとカットされ、首飾りを取戻してめでたしめでたし、というバージョンとなっています。
これ、大事なので覚えておいてください。

お話自体は非常にスピーディーにサクサク進みます。
見事なくらいいいリズムで進みますね。
舞台転換なんかも気が利いている。
例えば三銃士と親衛隊のチャンバラで転がった死体(?)を町の人かお城番が「やれやれ」と掃除しながら庭をセットして、王と王妃をお迎えするとか、あるいは三銃士と親衛隊の酒場のチャンバラシーンは、酒場の客や店主が「きゃー」「うわー!」「また始まったー!」と慌てながらテーブルや酒樽なんかを撤去していく。
幕を下ろしたり、変な間を空けずにあのめまぐるしい舞台シーンを変えていくのはお見事です。

また冒頭でもいいましたが男性の登場人物も多く、それぞれにヴァリエーションが用意されているから踊り的にも見応えがある。
ダルタニャン、三銃士のパ・ド・トロワにアトス、ポルトス、アラミスのそれぞれのヴァリ、ロシュフォールと親衛隊の群舞、ルイ13世にバッキンガム公爵とそれぞれが踊るのは、(本来なら)キャラ萌にはたまらない。
さらに王と王妃、王妃とバッキンガム公爵、ダルタニャンとコンスタンス、さらには王妃とコンスタンス(!)のパ・ド・ドゥなんかもありで、結構面白い。

何より舞台上で王に王妃、バッキンガム公爵が三角関係で火花を散らしているのをよそに、KYな田舎者ダルタニャンがちゃっかりコンスタンスを口説いていたりとか、真ん中だけを観ていたら大事なところを見落としそうなくらい、芝居要素も濃いのですね。

そういう意味ではドラマティックバレエにも通じる、演技力も多分に必要とされる舞台です。

ただ非常に残念なのは三銃士の3人の衣装が同じ白ということ。
とにかく衣装の色彩が単調で、フランス国王側がほぼオール白で悪役は黒。
ダルタニャンもずっと田舎者らしい茶色のベストならいいのに、途中で三銃士とお揃いになってしまうので、ただでさえ三羽一絡げの三銃士が四羽一絡げになってしまう。
クライマックスはヒロインのコンスタンスさえも、その他女官とお揃いの白ドレス。
踊り手がキャラを極めていれば、同じ白でも浮いてくるのかもしれませんが、それができなければ完全に登場人物が埋没してしまい、没個性になってしまうのです。

そんな状態ですから、踊り手に個性・演技力・キャラへの理解がなかったらもう、とてつもなくつまらない舞台になってしまうわけですね、このプロコフスキー版「三銃士」は。

簡易版小説を読んだり映画を見ただけではキャラにはなれません。
ダンサーがダルタニャンがどういう野望を持っているか、どんな風に田舎で遊んでいたのかとか、ミレディだって何故堕ちたかとか、そいうところまで考えて考えて咀嚼して嚥下して、身体の隅々にまでキャラを叩きこまないと、この舞台は面白くならない。
作中では語られていないけど、アトスだって三銃士のリーダー然としていますが、「お前もう一生アトス山に籠もってていいよ」的ヘタレ坊ちゃまな過去がありますし、アラミスだって「鉄仮面」の首謀者たる未来があるわけで、そうすると色恋系キャラでありつつなにか野望滲ませる胡散臭さがあってもいいわけです。

そういう理解がダンサー全員にあって、舞台の登場人物全てがキャラとして呼吸して一つになって初めて17世紀フランスが登場するわけです。
それぞれが自分のパートだけをお上手に踊っても、ちっとも面白くない。
キレイに踊る「だけ」のバレエほどつまらないものはない。
プロは上手に踊って当たり前で、さらにその先の演技力、表現力が必要なのは言うまでもありません。
心が通じあっていないパ・ド・ドゥの退屈なことったらないわけです。

そういう状態ですから、バレエはよくわからないけど「三銃士」というお話や三銃士のキャラ萌えで「どんなアトスだろう」「どんなアラミスだろう」と見に来たコアな原作ファンが見ると「やっぱバレエってキレイだけど退屈ー」になってしまうわけです。
残念極まりないです。

しかも「後味悪い」とか、多分そんな理由だと思うのですが、このプロコフスキー版「三銃士」は本来の原作の起承転結の転結の部分をばっさりと切り落としてしまっているわけです。
本来「転結」まで持っていくはずのスピードはそのままに、バッサリ「承」で終わるわけですから、お客的にはぽーんと放り出された感じで「え…っ??( ゚д゚)ポカーン」となってしまう。
せめてあんな「お話の復習」じゃなく、王妃が取り戻した首飾りを付けて舞踏会に現れ、王の疑いを晴らし、リシュリューがコンチクショーとなるシーンに持って行けなかったのか。
プロコフスキー氏がこの改訂版に手をいれないまま亡くなられてしまったので、おそらく著作権が発動しているでしょうから、このバージョンは少なくともあと46年はこのままですか?
…そりゃないわ。

とはいえ、お話はアレでも小芝居がしっかり演じられ、演技力もあるバレエダンサーさんたちがキャラになり切った舞台であれば「まあ、これはこれでまとまってたね」ということになると思うのですが、残念ながら今回はそこまでは堪能できませんでした。
本当に、残念としか言いようがないです。

そのダンサーさんですが、8日は元英国ロイヤルバレエのイヴァン・プトロフが、9日は菊地研さんがダルタニャンでした。
どちらもダルタニャンとしてはイケメンすぎで元気いっぱい系でそれぞれ良かったのですが、9日コンスタンス・青山さんがなり切りには遠いものの踊りも美しく安心して見ていられ、また菊地さんとのコンビネーションが良かった分、パ・ド・ドゥも退屈ではなかった。
菊地さんはやっぱり牧では、私は好きですね。

三銃士は8日の組み合わせが良かったです。
アトスの篠宮君は落ち着いたアトス。
彼はちょっと小さめですが、踊りも演技も安定していていいな。
イケメン清瀧千晴君がポルトス…に最初は「??」でしたが、ポルトスの派手好き見えっ張りなオシャレさんをフューチャーしていたのだとわかり納得。
何より彼が一番背が高いわ(笑)

問題は悪女ミレディなんですが、どうしてもバレエのお嬢さまは総じて「オヒメサマ」なのか、全然悪女には見えず小悪魔止まり。
このぶった切りストーリーなら小悪魔ミレディもありなんですが、それにしたってお姫様根性が全然抜けてない。
それでも8日の日高さんは目が笑ってなくて、今まで見たミレディの中では、いいほうだったかもしれません。

というわけで尻切れ感バッサリの「三銃士」。
ホントに冒頭でも言いましたが、男の子の登場人物も多い分、とてもいい演目だと思うだけに、いろいろ残念極まりないです。

また本来「結」まであった作品だし、東宝ミュージカルの「三銃士」も(ミュージカルとバレエは違うとはいえ)アトス&ミレディの過去やラ・ロシェルの戦いなんてエピソードまで入れながら2幕物で「結」まで持っていってるし、バレエでもできないはずないんですが。
「後味悪い」といいましたが、断言しますがそれはやはり原作の読み込み不足で、ちゃんとお話の真意を解釈すれば、「後味悪い」部分もちゃんと意味を持ってきます。
そしてダルタニャンもチートなヒーローではなく、深みのあるキャラクターになるのです。
思えばパリ・オペラ座のエトワール・ガラは1時間程度の学芸会とはいえ、「結」を外さなかったのはさすがでした。
三銃士の本国ならではでしょうか。

言うだけならいくらでも言えるので言ってしまえばね、本当に俺に脚本書かせろ、ちゃんと意味のある「結」まで持って行くぜ!という叫びが、改めて止まらなくなった鑑賞でもありました。
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by kababon_s | 2014-03-14 03:24 | Ballet