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ニーナ「ドン・キホーテ」:ニーナとグルジア

ニーナ・アナニアシヴィリ。
往年の大プリマです。
かつてはソ連人であり、今は「グルジア人」。

かつてグルジア国立民族舞踊団のダンスを見たことがあります。
「男性は勇壮で、女性はたおやか」「情熱的な民族」とパンフレットに書いてあったように記憶しています。

セルゲイ・パラジャーノフ。
「鬼才」と呼ばれソ連時代は反骨のグルジア人として何度も投獄された映画監督。
稚拙な絵柄に強烈な色彩が印象的なニコ・ピロスマニ。

ニーナ、パラジャーノフ、ピロスマニ。
共通するところはやはり「情熱」であり「高き誇り」です。

今回のグルジア国立バレエ団。
正直、国際レベル的にはまだまだですが、そうした「勇壮な男性」「たおやかな女性」「情熱」「誇り」は随所に見ることができました。

なにより「グルジア人」として、母国のバレエ団を引き受けたニーナ。
世界を渡り歩き、世界のレベルとクオリティを知っている彼女だからこそ、これから彼女がやらなければならないことがどれほどに困難で、しかしやりがいがあることか、きっと分かっているに違いありません。

そうした思いを背負って踊る、しかし依然華のあるニーナのキトリ。
柔らかく大きなジャンプで、無音の着地。
テクニック偏重の昨今、力押しではない、「優雅さ」で魅せるグラン・フェッテ。
一歩一歩、回転のひとつひとつ、パの一つひとつを丁寧に大事に踊る彼女の姿勢は、グルジアの団員たちにもきっちり指導されているのでしょう。
時折カッポカッポというお嬢さんはいましたが、とにかくポワントの音の少ない、腕の振りひとつにまで気を配ろうとする、当たり前ですがそれがすごいと思わせる舞台が印象的です。

森の女王にイタリアン・フェッテはありません。
「振りのレベルを下げても、でも丁寧さと優雅さ、基本は絶対におろそかにせずに魅せる」。
「ハンパに高度な技術を見せるよりは、LVを下げてでも優雅で美しい舞台にしよう」。
こんなところでしょうか。

とにかくテクニックの派手さはありませんし、全体的に振りを端折ってはいますが、
とにかく大事に、丁寧に、今できることで魅せる、という意欲が伝わってきたような舞台です。

と同時に、舞台が進むにつれ、ニーナのグルジア人としての、母国グルジアのバレエの未来にかける思い、バレリーナとしての自分の人生……もういろいろな思いが本当に押し寄せてくるかのようでした。

国が独立して十数年。
トゥーシューズもまともに買えない、という団員が多いというグルジア。
「ニーナ財団」を創り寄付を募るところに、台所事情の苦しさが見えますし、本当に彼女が背負った“十字架”はすごく大きく、重たく、しかし偉大です。

なんだかとてつもなく、たくさんのもの、大きな何かを受け取ったかのようなグルジアの「ドン・キ」。
なんだかかの国に足を運んでみたい。
心底、そう思わせられるニーナの踊りでした。

by kababon_s | 2007-07-27 23:06 | Ballet