谷桃子バレエ団「海賊」:アリなしの勇気ある挑戦

3月21日マチネ、谷桃子バレエ団「海賊」を見てきました。
エルダー・アリエフ振り付け、イリーナ・コルパコワ監修の新制作版で、日本初演です。
「海賊」といえば原典自体がいろいろ手が加わり、元がどんな形だったかさえわからず、さらにあっちこっちからいろいろな音楽を足して足して足して……とやっているうちに、なんだかよーわからんわ、という状態になってしまっても上演が繰り返されている、不思議な作品です。
が、やはりキャラの妙に濃い男踊りが多くて、つい見てしまいます。

その不思議な謎の作品を「プティパの振り付けは残しつつ、お話の筋をすっきりさせ整理した」というのがこの「アリエフ・コルパコワ版」といえましょう。

キャストを見て「んん?」と思った通り、最大の違いはアリとビルバントがいないことです。

プログラムによると、そもそもアリというキャラは初演時のコンラッドがお年で激しいヴァリエーションが踊れなかったため付け加えたキャラ、ということだそう。
つまりアリはお話から消えても態勢に影響はない、といういことでしょう。

でも「なにがなんだか、よーわからんわ」という海賊がそれでも上演を繰り返してきた理由のひとつは、おそらくあの有名なグランパドドゥの存在があるのでは。
ガラやコンクールでも踊られる人気のパドドゥであり、アリのヴァリエーションです。
アリをカットするというのは、相当に勇気のいったことと思います。

その分ストーリーはコンラッドを中心に据え置き、彼とメドーラの恋愛に絞っています。
コンラッド中心というのは私的には非常にうれしいものです。
だって、やっぱりコンラッド、かっこいいじゃないですか。
イケメンポジションじゃないですか。

ともかく、そういう勇気のいる挑戦だったアリエフ・コルパコワ版の海賊です。
言わんとしていることはすごくわかります。
とってもよくわかりますし、男踊りはかっこいいし、谷の男性もよく踊るしパワフルだし、これはこれでありだと思います。

ただ一方で、枝葉を全部切り落とした立木というのか、鉋で削りまくってツヤツヤになった白木というのか、炭酸を抜いたコーラというのか、とにかく毒抜きの「キレイ」な海賊でした、いろいろな意味で。
つっこみ始めたらキリはないのですが、でも話の筋は通ります。
何より若い齊藤拓芸術監督(39歳!)の率いる谷桃子バレエ団の、この作品にかける熱い意欲がひしひしと伝わってきました。
ダンサーさんの気持ちがまとまって一丸となって踊る舞台ってのは、やはり見ていて楽しいし、素晴らしいです。
このバレエ団、今すごく雰囲気がいいんだな。

というわけで、せっかくですから以下1幕から順を追って。

●1幕:コンラッドはピンクの花園の夢を見る

序曲のおなじみ海賊船の登場ですが、難破ではないようです。
無事ある海岸に上陸したコンラッド(今井智也)一行、早速男女群舞の海賊の踊り。
船には女性も乗っていたんでしょうか。
服を着替えて奴隷市場に乗り込みます。

奴隷市場ではお金持ちのパシャ(まん丸でキュートでらぶりー)を相手にイザーク・ランケデム(三木雄馬)が「商品」のお披露目。
てかフルネームか、ランケデム!?
イザークだったのか、君は(笑)

ともかくイザーク・ランケデム(←しつこい)とギュリナーラ(齊藤耀)との奴隷市場のパドドゥです。
このギュリナーラがいやよいやよ、と言うよりは「できるだけお金持ちがいいわ~」と自己アピールしまくる、なんだかとってもポジティブ(笑)な女性です。

そこに現れるコンラッド一味。

ギュリナーラが見事お買い上げされ、次に登場したのがメドーラ(永橋あゆみ)。
ここでメドーラとコンラッドがふぉーりんらぶです。

ライトが落ち、時が止まったなかで踊られる2人の世界。
一瞬で、目が合った瞬間惹かれあってもうどうにもならない、誰にも止められない、どうにも止まらない~、という思いが踊られます。
気持ちがすごく伝わってくる。

しかしメドーラもまたパシャにお買い上げ。
ここで乱闘になるのかと思いきや、海賊一味は大暴れもせずに去っていくパシャの後を追い退場。
……何のために来たんだ、お前ら(^_^;)

場面変わって海賊のアジト。
「1人にしてくれ」と人払いしたコンラッドはそのまま寝入ってしまうのですが、ここであの、生ける花園……!!ガーン(゚д゚lll)

待ってくれ、コンラッドってこんなちゃらい夢を見るキャラですか!?
これはファニーなパシャの夢ならわかるが……?
こんな脳天気な音楽でピンクの花園の、ホレた女の夢見るコンラッドなんてやだー!!・゚・(つД`)・゚・ ウェ―ン
とまぁ、のっけっからさまざまな思いが駆け巡るわけですが。

言わんとすることはわかるわけです。
夢に見るほどホレちゃった。
罪作りなのはこの花園の、ディズニーランドか安っぽいフレンチカンカンのような音楽なんです(;´д`)トホホ…

踊り自体はコンラッドも加わってのパドドゥ付き。
総じてこのバージョンのコンラッドは実に出番が多くよく踊る。
今まで、立ちんぼだったり、人によっては空気だったり、結局単なる色ボケにしか見えなかったり、というコンラッドにスポットを当てようとする意欲はとてもよくわかるし、やはりこれはすごくうれしいです。
コンラッド、かっこいいコンラッドっていいじゃないか…(若干息切れ気味)。

でも……どうしても、この花園のコールドを使わなきゃいけなかったですか?
今これだけいろいろなバレエがあるんだもの、無理して女性コールドをねじ込まなくてもいいじゃん!と思ってしまうんですけどね……(T_T)

ともかく。
夢から覚めて自分の心に気づいたコンラッドはメドーラのいるパシャの宮殿へと出かけていくのでした…(すでに遠い目)。

●2幕:コンラッドはメドーラの愛の奴隷

気を取り直して。
パシャの宮殿ですっかり環境に順応しているギュリナーラがハレムを仕切っています。
このギュリナーラのキャラはなかなかいいですね。
ポジティブに生きてます。
パシャをもてなすために、ここでオダリスクが踊られます。

でもメドーラはベッドに突っ伏したまま。
パシャを拒絶し、己の状況を悲観し、市場で会ったコンラッドに思いを馳せます。

1人になったメドーラのところに現れたのはコンラッド王子(単独)。
さらにギュリナーラが現れ、メドーラに同情し自分が身代わりになってメドーラとコンラッドを逃がします。

メドーラのヴェールをまとってベッドに突っ伏しているギュリナーラのところへパシャが宝石等々贈り物を持って現れ、ギュリナーラはちゃっかりいただいてしまう……というシーンも。
このギュリナーラはなかなか分かりやすい。
いいキャラです。

別段海賊のチャンバラもなく、メドーラをつれて帰ってきたお頭コンラッドを仲間たちは迎え、ここで踊られるのがあの例の、一番有名なパドドゥ。

ですが。

コンラッド、それまではギリシア風のかっこいい海賊衣装だったんですけど、ここでアリの衣装に着替えてしまうんです。
頭に羽まで付けて。

いや、言わんとすることはすごくわかるのですが(こればっかり)、このパドドゥ、振り付けも奴隷のままですから、コンラッドがいきなりアリになってしまった感が拭えない。

いや、奴隷のようにあなたに愛を捧げます、と解釈もできるのですが、そう思った瞬間もう「サバの女王」のあの、「わ~たしはあなた~の~ あ~いの~どれい~~♪」が頭に浮かんできてしまって、海賊のパドドゥの曲と2曲並行で脳内ステレオサラウンドのようなカオスな状態に陥ってしまいました( ̄v ̄lll)

衣装……奴隷でなきゃだめでしたか?
最後までコンラッドを貫いてほしかった。
せめて衣装がコンラッドなら、サバの女王は引っ込んでいてくれたかもしれない……。

ともかく。
パドドゥが終わり、フィナーレを飾るのがフォルパン。
迫力です。
かっこいいです。
否が応でもテンションマックス。

フォルパン・チーフに芸術監督の齊藤さんが自らお出まし。
これフォルパン・チーフでなくても、ビルバントでもよかった気がします。
コンラッドに忠実な白ビルバント(笑)
ラストはアリだかコンラッドだか、ともかくお頭はメドーラを伴い、また新たな冒険へと旅立っていくのでした(拍手)。

とまぁ、こんな流れです。
何度も言いますが、言わんとすることはとっても!よくわかる。
でも「なんか違うぞ」感も多分に漂うアリエフ・コルパコワ版海賊ではありますが、あの手の施しようのない作品をきれいにまとめた、という大いなる挑戦にはやはり拍手を送りたいし、敬意を表したい。

さらに谷の男性陣が迫力でパワフルでしたし、ここの男性はでかいのでこういう演目では見栄えがします(何年か前のバレエの饗宴のときの「韃靼人の踊り」はすごかった)。
パシャも熱演でしたし、メドーラの永橋さんも非常に品があってよかった。
ギュリナーラもおそらくコンラッドに次いで違ったキャラではないかと思うのですが、いい解釈でしたね。
こういうギュリナーラは結構好きです。
そして何より谷の男性プリンシパル3人衆がすばらしかったですし、若い芸術監督の感性が、この歴史のあるバレエ団をこれからどういう形で率いていくのか、なかなか興味深くも思えました。

それにしても「海賊」、やっぱり難しいのだなぁ……。
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by kababon_s | 2015-04-04 03:26 | Ballet