新国立劇場バレエ団「ラ・バヤデール」(1):キャストゆえの面白さ

新国立劇場バレエ団「ラ・バヤデール」を観てきました。
今回は17日(火)、19日(木)の半分、21日(土)、22日(日)と、結局全日参戦。
ニキヤとガムザ、実力の拮抗した者同士による「バヤデール」がこんなに面白かったか、こんなにもドラマが深くなるものか、今まで観てきたバヤデールは何だったんだ??とこの作品の面白さ自体に改めて気づかされました。
すごかった。

ニキヤ/ソロル/ガムザッディの順に平日2日が小野/ワディム・ムンタギロフ/米沢、21日長田/菅野/本島、22日米沢/福岡/長田という3つの全キャストを観ましたが3種3様、それぞれに世界観が違い実に濃密です。

一言で言えば初日組は小野VS米沢が目玉の豪華キャストで、若い2人中心の「娘たちのバヤデール」。
21日はベテラン組による「女たちのバヤデール」。
22日はそれぞれニキヤ、ガムザを演じた2人が役を変えての舞台。
またこの日の福岡ソロルが独自の解釈でしょうか、男の業(のようなもの?)を感じさせられて実に面白かったですね。

また主演の3人がぎっちり輝くことで、大僧正とガムザのお父ちゃんであるラジャの存在感がとてもくっきりしてくる。
今回は前半2日が大僧正/ラジャの順にマイレン/貝川、後半2日が輪島/マイレン。
これがまたそれぞれ味わいがありました。

●豪華キャストの「娘たちの戦い」

前半2日間の小野/ワディム/米沢組。
平日夜はやっぱり(スケジュールにもよるが)きついです。

それでも必死に走ったのはひとえにこのキャストだからです。
個性は違えど実力ともども日本のバレエ界では間違いなくトップクラスの、新国2枚看板の競演。
おそらく今考えられる日本最高のキャスト。
いわば姫川亜弓と北島マヤの対決!というくらいの組み合わせで、これを観なくてどうするよと。
最近判で押したように、役とか作品内容とか何も考えてないの?的キャストが多いけれど、このキャストは褒めます。

そして期待を裏切らない、想像以上の感慨でした。
ニキヤとガムザがしっかりすれば、これほど話にも、ヘタレなソロルの行動にも筋が通るものかということを改めて思い知りました。

ほんとに今まで観ていたバヤデールは何だったんだ。
ニキヤとソロルだけ海外豪華ゲスト、という配役ではこの作品の面白さはやっぱり伝わりにくいですね。

いやでも、マリインスキーや大昔のレニ国、パリ・オペラ座、もちろん先のボリショイの公演でザハロワ・ニキヤとアレクサンドロワ・ガムザッディというすごいキャストも観ていたんですが、ここまで面白さを感じたか、というと違う。
影の王国で終わっているからでしょうか。

顛末から言ってしまえば、この新国の牧版は、影の王国のあとに4幕があるわけです。
寺院前でソロルとガムザの結婚式が行われようとするそのとき、神の怒りで寺院が崩れ落ちる。
この辺りはマカロワ版と似ているのですが、牧版ソロルはニキヤに導かれて昇天するかと思いきや、途中で倒れ息絶えるのですね。

この余韻が、いろいろ考えるところがある。

「白鳥」の誓いを破っても結ばれるご都合的なハッピーエンドとは違い、この「バヤデール」では誓いを破った裏切りは許されない。
3幕の影の王国がすでにソロルの幻影世界であり、その世界のニキヤ自身がすでにもうソロルの描く幻です。
果たしてニキヤ自身も昇天できたのか、神の世界に行けたのか…と思わせられます。

そういう「バヤデール」を小野、米沢、ゲストとは思えないほど不思議なほど新国に馴染んでいるワディムに、大僧正マイレン、パパたるラジャは貝川さんが演じました。
観る側としてもよく馴染んだ「言語」で紡がれる物語ゆえに、一層迫ってくるものがあったのかもしれません。

ニキヤという恋人がいながら、ラジャの娘・ガムザッディとの婚約を命じられ、ガムザの美しさに心揺れ動いてしまいニキヤを裏切死に至らしめてしまう、というヘタレなダメ男・ソロルの物語。
そこにニキヤに横恋慕する大僧正、力づくで何でもできるぜ、なラジャの思惑が絡みます。
昼メロです。
プログラムに今回ダンサーさんの作品解釈がありましたが、小野さんのいう「ニキヤも黒い女」(要約)がとても納得がいきます。

神に仕える寺院の舞姫、つまり巫女でありながら、ソロルと密会するニキヤ。
「ニキヤ自身も罪深い」という小野さんの言葉通り、巫女でありながら恋する男との逢瀬に喜びを隠せないわけです。
そして「ソロルをあきらめろ」と高飛車に告げるガムザお嬢様の懇願に一歩も引かず、思わず刃物を手にしてしまう、激しい娘です。
ニキヤに惚れてしまう大僧正だって生臭だし、特にマイレン大僧正は最初からもうニキヤにメロメロエロエロ。
そしてニキヤがソロルと恋仲と知り「殺すぞ」というエロ僧正。

ラジャももうほしいものは何でも手に入れる、という王様。
大僧正がソロルには恋人がいると告げると「だからなんだ、じゃあ殺すわ」と言い放ちます。
ガムザッディも父親同様、手に入れたいものは何でも手に入るし手に入れられて当然というお姫様です。
誰もが私にひれ伏して当然というお嬢様です。
だからVSニキヤのシーンでは、ニキヤが一歩も引かないのにビビリ驚き焦り、首飾りを与えようとするシーンでは「もってきなさいよ!ほら!こんな高価なものあげるって言ってるんでしょ!」とばかりにヒステリックになるわけですね。
そしてニキヤを「コ・ロ・ス」という恐怖のポーズを取り(本当に怖かった唯ちゃん)、また「父の企みを止められたのはガムザッディだけで、それをしなかった彼女もやはり罪深い」(プログラムの唯ちゃん談)と言うとおり、みんな強烈にドロドロです。

1幕の間に3回も「殺すぞ」ポーズがでてくるわけです。
こういう4人の強烈なキャラに翻弄されるわけです、ソロルは。
ソロルを囲む人々は全力で欲望に忠実に行動するから悲劇が起こる。
ソロルももちろんニキヤにホレながらガムザに心を惹かれる「欲」があるわけですが、あの強烈さに比べたらやはりヘタレです。
洗濯機でもみくちゃになってるワイシャツのようです。
しかも残念ながら形状記憶加工なしですから、よろよろシワシワでもう元に戻れません。
1幕、ニキヤとの密会はもうラブラブ。
また小野ニキヤが実に美しく、可憐です。
マイレン大僧正がなりふりかまわず「おおおお!」と驚き、こっそり拾ったヴェールに顔を近づけむっはーとやる辺りは、本当に可憐な美少女がエロおやじに狙われてる感じで、絢子ニゲテー!と叫びたくな
ります(笑)

そんな可憐な舞姫と密会し、今度はラジャの娘を紹介されて「おおっ!」とよろめくソロル。
米沢ガムザもお嬢様本領大発揮なのかもうほとんど地で行けているのか(笑)
とにかく視線のキツイこと、怖いこと。
ソロルにはにっこり微笑み、ニキヤはキッと睨みつける。

ソロルといえば、婚約式のグランパドドゥの途中辺りからもう表情が変わってくる。
迷いです。
このソロルはやはりニキヤが好きです。
満面の笑みのガムザとは対照的。
「きっ!」と引き戻すガムザ、まだ戦いは終わっていない。
これでもかとガムザの大技は、さすが唯ちゃんはしれっと、涼しい顔して難なく決めます。

そして悲しみのニキヤ、花籠の踊りから、花籠に仕込まれた毒蛇の顛末。
音楽が今回素晴らしく良くて(バクラン先生は毎回来てほしい!)実に音楽と一体化した素晴らしい踊りです。
ソロルの心変わりの悲しみと、裏切ってしまった神様に、それでも祈り、ソロルの心を取り戻したいという、もういろいろな思いがこもっています。

そういう踊りの途中に米沢ガムザがソロルに手にキスさせるんですが、実に鬼!(笑)
まあそのときの勝ち誇った表情といったら!
ゾワゾワしますね。

ワディムソロルはもうシオシオで、そこに(いろいろ自信がついてきたのか)最近貫禄の出てきた貝川ラジャがのっそりと娘の横に座るわけです。
しがらみでがんじがらめのヘタレ戦士は毒蛇に噛まれた、ニキヤの最後の懇願にも応えられません。

ですからそりゃあもう、ニキヤが息絶えた瞬間「うわぁぁぁぁぁぁ~!!!」と頭抱えて逃げ出してもしょうがないというか、そうなるだろうそれは、と。

そして影の王国から顛末へ。
新国のコールドが尻上がりに良くなっていくのはなんだかもうお約束的で、これもどうかと思えど、ポワント音がパタパタ響く中にあって、絢子さんがほぼ無音で決めてくるあたりは本当にお見事です。
ソロルが顔をのぞき込もうとしても、フッと緩やかに回転して目があわない、その流れが切なく美しい。
絢子さんは本当にきれい。
輝いてます。
白いバレエの中ではほのかに。

そして4幕、ニキヤのベールに導かれながら、息絶えるソロルです。
4幕のニキヤもすでに影ですから、ニキヤというよりソロルの観た幻影、ととらえることもできるし、ニキヤの魂だってどこにいるのかわかりません。
実に余韻が深い。

惜しむらくは4幕の結婚式、主要5人にソロルの友人(同僚?)だけ、というのが寂しい。
女性陣は影のコールドに出払っているとしても、男性はいるわけですから、兵士も坊さんも引き連れてもっとソロルを追いつめてもいいのに。

ヴァリエーションは細田さんがいいです。
影の王国とか、幽体色というのでしょうか。
彼女の真ん中は本当に観たい。

寺田さん、この人はリラでもキトリでも壷娘でも幽体でもシンデレラでも同じだなぁ…。
自キャラが役にはまればいいのでしょうが、そうでないとすさまじくミスマッチです。

あとピンクチュチュ、ブルーチュチュ等々のヴァリエーションで新しく入った方々は、本当に笑顔が下品です。
変顔大会じゃないんだから…。

というわけで、あと2つのキャスト分はまた後日。
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by kababon_s | 2015-03-03 13:06 | 新国立劇場バレエ