新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」:いろいろ気づくシーズン開幕

新国立劇場バレエ団、新制作「眠れる森の美女」の8日(初日)、9日、16日(千秋楽)を観てきました。

主演は初日米沢唯&ワディム・ムンタギロフ、9・16日が小野綾子&福岡雄大。
9日はフロリナと青い鳥が唯ちゃんに井澤駿君ということで取ったチケでしたが、残念ながら井澤君がケガで降板。
始まる前からいろいろ噂の新人君ですが、とにかくプロとしての舞台を観なければなにも言えん、と思っていただけに残念でした。

ともかく、新制作ということですが、もうすでにいろいろなブログさんでも書かれていますが、プロダクション的には「今回の問題点(特に衣装や冗長さ)を手直しして、ちゃんとダンサーさんに寄り添ってくれる指揮者を呼んで、次はもっといいものにしてね」というところでしょうか。
とにかく指揮者のテンポがなんか気ままというか好き勝手というか、でれ~っと思ったらつんのめりそうとか、どうも終始逆撫でされているような猫の気分だったので。

またプロダクションは現代風に短く…という話だったのに、ふたを開けてみたらオーソドックスな冗長バージョンと変わらない3時間半の長丁場。
でも「きれいに踊る」だけではない新国ダンサーさんだからこそ最後まで観ていられるし、やはり楽しめるのです(以前某バレエ団で観た冗長オーソドックスバージョンは席に座っていること自体が拷問だったので)。

でも冗長とはいえ、追加された王子とオーロラが出会う「目覚めのパドドゥ」は実に情緒的で美しく、これがあるからオーロラと王子が恋に落ちて結婚する場面に説得力が増す。
しかも今回見た2組のキャストは実に情緒的に、情感たっぷりに踊ってくれたので感動もひとしおの、実に美しい場面でした。
踊りに加えて物語性も紡ぐことのできる新国だからこそ、こういう心理描写に深みを増す演出を加えることはよかったと思います。

さらにこの「目覚め」から休憩を挟み、オリジナルな振り付けを加えた3幕は(いろいろあれど)やはり見応えありました。

猫はコミカルだし、赤ずきんと狼は結構大変なことをしてて今までにみた「赤ずきん」のなかではかなり面白い。
親指トムはあれを踊れる男の子がいる新国だからこそ、でしょう。

特に宝石は男性1人、女性3人という組み合わせで、音楽にあれこれ手を加えているのは??ではあれど、振付は結構大変そう。
というかこの宝石はやはり好きです、衣装以外は(笑)
特に女性3人の色彩、なんとかならんかと。
もうちょっと色味が落ち着いていればいいのですが。

最大の触れ込み、カラボスをポワントをはいた女性役にした演出ですが、最後までストーリーに生かしきれなかったのが残念無念というか、あああやっぱり…というか。

つまり、冒頭でリラVSカラボスを象徴させる演出が、結局なにも生きず、哲学もストーリーも何もないまま終わってしまった。
2幕のリラとカラボスの対決も、もっと踊りの対決があるのかと思いきや、意外にあっさりカラボスが退場してしまい、ロットバルトが勝手に死んでいく白鳥を思わせられ、がっかり感の方が強かったり。

ただカラボスの乗り物のスパイダーマシンは結構ツボでしたし、衣装がやはりいいです。
これを着こなせる人ってそういない。
本島・湯川という華やかで(いろいろな意味で)大きなお姉さま方のいる新国ならではだと、やはり思います。

そしてこういうカラボスだからこそ、対するリラのキャストにはもっともっと気を使ってほしかった。
謎のゲストは最後まで謎ですし、寺田さんはがんばったと思うのですが、やはりあのカラボスに対抗するにはやはりまだまだ小さい。
もっとほかに適役がいるだろうと思うのですが、青い鳥とフロリナも含めて、キャスティングには大いに疑問の残るところです。

プロローグの「同じ色の妖精」も、同じ色だからこそ、今回新旧取り混ぜて配役されていたダンサーさんの「差」が実に明確。
新しい人たちは「うっ…」と思わず引くようなニパっとした作り笑顔なのですぐわかる。
新国ならではの「品」というのが、実は培われていたんだと改めて知る思いです。
そういう意味ではまあ、今後の精進に期待、というところでしょうか。

●改めていろいろ気づく新シーズン開幕祭り

ともかく初日の主演は米沢&ワディム組。
カラボスが本島さんに、リラがゲストの瀬島さん。
無敵のお嬢様×ロシア産の英国王子×眼力美女×コテコテ関西母ちゃん、というお祭りみたいなキャストでどうなるんだと思っていましたが、結局関西リラだけ浮いてた舞台でした。

あとは非常に素晴らしく、特に唯ちゃんとワディムのペアは、1週間しか合わせる時間がなかったとは思えないほどの、素晴らしい息の合い方です。
ワディムもゲストとはいえ、実に新国の舞台になじんでいて違和感ありません。
相手の身長が高いせいか、何より久々に唯ちゃんがのびのびと踊っていて実に良いですね。
以前厚地君と踊っていたときのように手足がすーっと延びててより雄弁に見えます。
そういえばワディムも西洋人にしては肩幅がそんなに広くなく、背が高くてなんとなくあつじーっぽい。
この身長とノーブルさを併せ持った人は残念ながら新国にはいないので、ワディムを連れてきたことについては大原さん、すごい仕事をしたと言わなければ。
そして新国に足りないのは「あつじー」なんだ、と改めて実感しました。

また唯ちゃんのオーロラは実にシアワセそう。
このプロダクション、プロローグで愛され祝福されて生まれたというところがひしひしと伝わってくるんですが、そのまま16歳になり、もうどれだけ愛されて幸せなの?というような輝きです。

1幕はそのお嬢様が突然結婚を言い渡され、恋という感情も謎のままに「えー…結婚??」という戸惑いと、いきなり目の前に現れたイケメン4人衆に囲まれドキドキの、女の子の恥じらいみたいなないまぜな感覚が伝わってきます。
かわいいです。
それでいて鉄板のローズ・アダージョ。
お見事。

唯ちゃんのオーロラはまた特にお父さん好きですね。
貝川王様が貫禄があって、今回実にいい王様なんですが、やりとりがとても微笑ましい。
王妃の楠本さんが下々の踊りを頷きながら見る様子は美智子妃のようでした。

2幕のワディム王子はノーブルでアンニュイ。
狩り場でも一人沈んでる。
盛り上げようとする貴族や友人ですが、その友人役でフル出場のマイレン、いい味です(泣)
この人のどんな役でも入魂のプロ魂、役作りといい本当にこれは新国の宝です。
そういえば新加入の子だとは思うのですが、小芝居なしの立ちんぼ多発で残念でした。
今回特にベテラン男性陣の配役が残念すぎるものが多くて、見ていて切なくなるくらいだったのですが、もっと彼らの踊りや役作り、芝居の間や小技なんかを若い者に見せてやってほしい。
このところはもっと指導陣がしっかりたたき込んでほしいもんです。

とまれ、なんだかアンニュイな王子がリラに導かれてオーロラの幻影を見て彼女を見初め、救いに行く。
目覚めのパドドゥでゆっくり近づいていく二人の心が実に美しいです。

「恋って何…??」という答えの出ぬまま眠りに落ちてしまい、100年たってその続きと答えを知るという、オーロラのストーリーに改めて気づかされます。
100年たっていても、オーロラにとってはまさに人生の、16歳のストーリーの続きであり、昨日のことでしかないわけです。
また幻影のオーロラが幻影なのか、幽体離脱したオーロラなのか、オーロラ自身もひょっとしたら夢で王子とあっていたんじゃないかと思わせられる辺りがすごいなぁと。
いやいや、「眠り」なんて何回も見ているはずなのになぁ…。
恐れ入ります、米沢唯。
そして王子の心情が描かれるからこそ、その後の結婚式の幸せ感はこの上ないのです。

そして本島カラボスはやはり美しい。
舞台での美しさと演技力は、パワーアップしているように見えます。
美しさ故の存在感というのでしょうか。
4人の手下がまた楽しそうで、本島さんの演技力共々この一団を見ているだけでとても楽しい。
だからこそ、対するリラのキャストが残念無念。
本島・湯川・長田のエピーヌ三人衆でリラとカラボスを回してもよかったのに。
これだけ多彩でキャラの違うダンサーさんがたくさんいるのに、そういうところを全く見ていないとしか思えない。
首脳陣はいったい本気で考えているのか、お話をどれほど理解しているのか。

●ノスタルジーに未来の夢は見られない

その謎のキャストの最たるところがリラの精ですが。

最初に断っておきますが、個人の趣味はさておき(←強調)、基本的にはリラの精を踊ったゲストの瀬島さん(貞松・浜田バレエ団)はやはりすごい人だろうと思います。
独特の存在感、いちいち関西弁が聞こえてきそうな振りにしても個人の「言語」を持っている方だというのは、今回よくわかりました(繰り返しますが、それが個人の趣味に合うかどうかはまた別の話です)。

このリラのゲストの件についての最大の問題は、新国の首脳陣が自団のダンサーの実力を信頼していない(わかっていない)こと、キャスティングにセンスがないこと、そして何より新国ファンの気持ちをまったく!!わかっていないことではないかと(そういう意味では、瀬島さんはある意味気の毒です)。

つまり新国ファンは(少なくとも私の周りでは)、リラにゲストなどまったく!望んでいなかった、ということです。

ファンとしてはやはりバレエ団のダンサーによるリラが見たかった。
そしていないわけなじゃないんです。
むしろ瀬島さんより(荒削りでも)新国の舞台に合う方はたくさんいる。

私は単なる見る専の観客ですから好き勝手に申しますが。

たとえば長田さんは今回オーロラでしたが、リラは主役並に踊れる人であることを考えれば、「パゴダの王子」でエピーヌ・デビューをした長田さんはリラにぴったりだったと思うし、それこそ先にも書きましたが、湯川・本島・長田でリラとカラボスを回してもよかったし、堀口さんだってダイアナやミルタ、白鳥もやっているわけですから加えてもよかったかと。
そしてオーロラの3番目にはフレッシュな、たとえば細田さん、奥田さん等々の抜擢があったら面白かったのに。

もちろんダンサーさんすべてがパーフェクトではないし、役不足なところだってあるでしょう。
でも新国ファンはそれでも、「どちら様?」というよくわからないダンサー(しかも3月のNHKバレエの饗宴で「この人がリラかよ……」的げんなり感もすでに強く植え付けられていた)よりは自団の、将来の可能性や片鱗、きらめきを感じさせてくれる人の方が断然、よかったわけです。

そして実際瀬島さんがどうだったかと言えば、出てきた瞬間紛々と漂うセピア色の世俗臭。
お好み焼きの紅ショウガのような真っ赤な口紅をはじめアナクロなメイクはまるで「昭和」のおっかさんで、スタイルもスーッと足の伸びたお嬢さん方の中では残念ながら前時代(美的感性が昭和のままで止まっているノスタル爺な方には美しいのかもですが)。
笑ってても眉間に縦皺、演歌な振り、こってこてのアクの強すぎる押せ押せ演技もドン引きでしかない。

バレエは「現実を忘れる夢舞台」のはずなのに、瀬島リラの登場とともに一気に現実に引き戻されるわけです。

観光で言えば昭和は「レトロ」「ノスタルジー」のキーワード。
さびれた温泉街や赤い円柱のポストが立つ昔の街角で、そこに感じるのはセピア色の郷愁であって、キラメキや未来ではありません。
ビントレー監督時代までに蓄積してきた(未完成でも)新しいものを生み出そうとするダンサーさんたちと、セピア色のノスタルジーな異言語に、残念ながら化学反応は起きませんでした。

まあでも結果的に新国には新国の「言語」と世界が、それもやはり質もレベルも高いものがまだあるんだということを気づかせてもいただきました。
( ゚д゚)ハッ! まさかそれを観客にしらしめるために瀬島さんを生け贄にしたのか!?(←超イヤミ)

とはいえ瀬島さん自身はお子さんを産んでまだ現役で活躍されているダンサーさんで、やはり人生のキャリアやバイタリティのある方だと思います。
お客には見えない部分で、新国ダンサーさん達のプラスになるものがあれば何よりですが。

ともかく。
新国首脳陣に声を大にして言いたいのは、もう噛み合わない変なゲストはいらないから、もっと新国のダンサーさんたちに経験を積ませてあげてください、ということです。
ただでさえ上演日数が少ないんだから。
このゲストのために貴重なオーロラ枠・リラ枠が取られ、長田さんの日程が平日1回のみになってしまったと思うと悔しいです、やはり。

絢子さんの舞台は長くなりましたのでまた後日。
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by kababon_s | 2014-11-23 01:11 | 新国立劇場バレエ