新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」:「米沢唯」にただただ敬服する

2月16日、新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」、米沢&菅野さんの回を見てきました。

新国の「白鳥の湖」は牧阿佐美改訂版ですが、この演目、同じく牧改訂「くるみ」同様ダンサーさんを見る「だけ」に行くもので、中身はしょーもない。
15日も見ましたが、もちろんダンサーさんたちは素晴らしいのですが、しかし演出があまりに退屈で、抑揚もなく淡々とただ場面が進み、クライマックスは説得力のないハッピーエンドで、何が起こってんだかよくわからないままロートバルト(新国表記準拠)が勝手に溺れ死ぬ。

正直いくら新国女性ダンサーでは特に好きな米沢さん主演の白鳥とはいえ、「またあれを観るのか」的思いの方が強かったのです……が!!

が!!!

もう素晴らしかった、まさか泣かされるとは思わなかった…!

演出は相変わらずしょーもないままです。
何が変わったわけでもない。
だからこれは役者・米沢唯の力量だと思うのです。

あのしょーもない演出の、隙間や粗だらけの白鳥を、「米沢唯」の解釈と演技と踊りの力で美しい物語の世界に変貌させ、中身空っぽの「無」から感動的なドラマの世界を生み出した。
もちろん、王子の菅野さんはじめ新国のほかのダンサーのみなさんの力もあってのことなんですが。

とにかく冒頭からインパクトが強すぎた。
この牧版「白鳥」は冒頭「言いたいことはわかるが、やっぱり蛇足?」という、人間オデット姫がロートバルトによって白鳥に変えられてしまうプロローグがつくんですよね。

刺繍をしている姫がなにやら怪しい気配を感じ、不安におののき立ち上がる。
突如見えない力にがしっ!と捕まり、窓辺に引きずられていくと、そこにはロートバルトの姿。

この窓辺に引きずられていく一人芝居が、実に迫真の演技。
牧版白鳥は何回か見ていますが、この「蛇足」に今までこんなにズン!と重たい演技をした人なんて、私が見た限りではいなかった。

表情が恐怖と不安に満ち、手は左右後方、見えない力にひきずられ、でも彼女自身は必死に前に逃げようとする。
本当に見えない手が、ロートバルトの魔力が姫を掴んで離さないように見える。

逃れようとする姫の必死感と恐怖感の表情がまたすごい。
ああああ捕まってるんだ、どうなるの、と思う間もなくロートバルトががしっと抱きかかえ、窓辺には鳥になったお姫様の姿…。

もうこの短い一瞬のプロローグで、一気に舞台が米沢唯のオデットの世界です。
重いです。
ずっしりと、余韻が残ります。

オデットの身に降りかかった悲劇という沈鬱な空気を引きずりつつ、音楽は華やかなトーンに代わり、おなじみ王子のお祝い、そして湖のシーンへと続きます。

恐怖の体験で人生変わってしまったお姫様ですからもう、王子に出会ったって怯えています。
にわかに信じられなくて当然。
怯えっぷりが哀れで痛々しい。

でも徐々に王子に心を開いていく段階がすごくイトオシイのですよ。
怯えつつも徐々に距離を縮めつつ、羽先(?)でふっと触れ、そして心配そうに顔を見上げては後ずさる感じ…とでも言うのでしょうか。

ともかくいちいち姫の感情が手に取るように伝わってくる。
あのしょーもない牧版白鳥に言葉が生まれている。
いちいち台詞が聞こえてくる。
今までなかったことです、この「白鳥」を見ていて。

そして菅野王子が彼なりに、しっかり米沢ワールドに寄り添ってくれている。
菅野さんはやはりロシア系の作品は気合が違うのか、美しいですし、上品ですし、別け隔てなく誠実だ。
演目によるのかもですが、私は個人的には米沢&菅野ペアのほうが安心して見ていられます。

黒鳥登場の3幕が、またワルい小悪魔オディール!

あの愛おしい白鳥とは全然違う、妖しくてワルい小悪魔です(笑)
王子の顔を覗き込む妖しくイタズラっぽい視線や、ロートバルトに耳打ちされてニヤリな視線。
とにかく視線に磁力があるみたい。
あんな目線で覗きこまれて微笑まれたらこりゃ王子だってたまらないわ。
ドギマギしちゃいますね、王子と一緒に。
しかも白鳥の幻影が現れた途端「私はオデット!」とたおやかに化ける変貌ぶりのまあお見事なこと!
ズルい!(笑)

しかも言わずもがなの盤石テクニックのグランフェッテはトリプル付きで揺るぎなく、イヤミでもなく、もうこれ、王子は陥落するよりほかないです。
お見事です!

そしてこんな小悪魔を演じた後、このバージョンは休憩もなく一気に4幕に突入するわけです。
速攻またあの可哀想なお姫様にならなければならないのですが、しっかり絶望した姫となって再登場してくるから唖然…( ゚д゚)ポカーン

ただ残念なのは、この彼女の熱演と演技力をもってしても、この4幕はあまりにアレすぎといいますか、ダメすぎといいますか、やっぱりロートバルトが勝手に溺れ死んでしまった。
姫と王子のパ・ド・ドゥもないから、肝腎な2人の和解も今ひとつ伝わり切らず、だから「愛の力で呪いを解く」部分がどうしても弱くなる。

それでも、ロットバルトが溺れ死に、すでに呪いが解けて人間に戻っているオデットが、でも無我夢中だったのか最初はそれに気づかず、王子に手を掴まれて初めてハッと我に返り、人間に戻っていることに気付く…という演技(でも演技とは思えないほど自然)を、米沢さんはやってのけるのです。

これはやっぱりすごい。
こんなやり方、見せ方があったんだ…!
このロートバルトが沈んでから姫と王子が手を取り合うまでの「間」の演技があるからこそ、4幕の余韻が深々と染みこんでくる。
すごいです。

もちろん主演だけで舞台が成立するはずもなく。
パドトロワは長田さんがハッとするほど可愛らしくキュートで、また相変わらず美しい踊りです。
細田さんはパドトロワだけでなく、この日はルースカヤでも優美な動きで魅せてくれる。
福田君の道化はキレッキレだし、しかも動きがエレガント。
湯川・本島・マイレン・江本のスペインは、とてつもなくゴージャスですし、小さい4羽の白鳥がまた絶品です。
ナポリの奥田・広瀬さんに八幡君は軽快で、チャールダーシュの大和&古川は大人の魅力と古川さんならではのファニーなかっこよさがステキ。
6人の花嫁候補の「何この王子!?」的に、ただおとなしくがっかりしていない小芝居も惹き付けられますし、ダンサーさんたちは本当に素晴らしい。

そこに唯ちゃんの渾身の白鳥です。
一体彼女は舞台で「オデット、オディールとして生きる」ためにどれだけ修練を積んで研究を重ねて身体や心にそのキャラクターを叩き込んできたのか。
それほどまでに表情が、あまりに自然でした。
この駄演出の白鳥をここまで表現した仕上げた彼女の才能は間違いなく、稀有のものだと思います。
敬服します。

同時にちょっと思いました。
もし今はバーミンガムの厚地君のように、役柄のめり込み系のダンサーがパートナーだったら、この作品、とんでもないものになったのではなかろうか…とも。
まったくもって、言っても仕方ないことなのですけどね、百も承知で言ってみました。
唯ちゃんと一緒に、舞台で生きようとしてくれる、あるいはその人なりにのめり込み、なり切ってくれるパートナー、どっかにいないかなぁ…。
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by kababon_s | 2014-02-19 01:16 | 新国立劇場バレエ