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新国立劇場バレエ「マノン」:“行間”の見えるドラマに拍手を

7月1日の新国立劇場バレエ「マノン」を観てきました。
今回の主演は小野&福岡組で、このペアの演技が素晴らしかったです。
小野さんの化けっぷりがスゴイ!
清楚なイメージのある彼女ですが、小悪魔マノンを見事に表現してくれた。
小野絢子…こわい子…!

ただ、舞台全体の印象としては総じて前回のヒューストン組より一層コンパクトな感じがしないでもないけど、やはり見る私の方も2度目ということもあってか、細部の、後ろで踊ってる方々の動きなんかにも目がいき、すごく密度の濃い時間を過ごさせてもらったと思います。
終わったときは頭が酸欠でクラクラでした。

で、小野さんのマノンですが。
なんか私は前回のヒューストン組よりも、小野マノンの方に魔性というのか、黒い小悪魔的要素を感じました。
なんというか、小野さんのマノンには、彼女なりの、強い意志があるんですよね。
サラ・ウェッブのマノンには強い意志はあまり感じられず、白いままに流されて気がついたら沼地でした、という感じがしたのですが、小野さんは自らの意志で選び、選択し、その時を謳歌し、あるいは享受して、女として目覚め、駆け抜け、その挙げ句が沼地…というのかなぁ。

1幕のデ・グリューとの駆け落ちは、修道院に行くより、その年頃の若い娘らしい情熱的な恋愛の方に魅力を感じたから、というのか。
そして金のない若い男よりも、自分にメロメロな、なんでも与えてくれそうな富豪に傾いていく。
自分の魅力が金になる、ということにも気づいたのかもしれないです。

2幕の娼館パーティーも、彼女はおとなしくムッシューGMに従っているのではなく、その時言い寄ってくる男たちを相手にしながら、享楽的に日々を楽しんでいたんだろうなぁ、という“行間”がかいま見える。
そしてなーんとなく、そんな日々もマンネリ化し、飽きを感じ始めていたところにデ・グリューと再び出会う。
デ・グリューの下心もなにもない、純粋で一途な想いがその時のマノンには却って久々に新鮮に感じられ、また駆け落ち…って感じでしょうか。

その挙げ句、兄はボコられ死亡し自身は流刑地送り。

だからこそ、3幕の波止場から沼地までがとっても濃厚で熱かったのかも。
2幕までのマノンだったら、鬼畜看守でも権力者であれば、なにかしら従い、自分の魅力を駆使して巧みに立ち回ろうとしたかもしれない。

でも小野マノンはひたすらに拒否する。
彼女がデ・グリューへの想いに本当に気づき、心から彼だけを慕っていたのは3幕からだったからこそ、あの沼地のパドドゥが一層切なく迫ってきたのかもしれない。
小野マノンに「マノン」という人間としての意志やメリハリをすごく感じられ、また舞台上では踊られていないけれど、見えない部分――つまり行間が想像あるいは妄想できるようなマノンだっただけに、全体的にすごくお話の説得力があったですよ。

菅野レスコーとマノンの無邪気な(?)画策兄妹っぷりもよかったです。
今回の貝川GMは気の弱そうなおやじで(やはり前回のマイレンGMのインパクトはすごすぎた!)、デ・グリューのいぬ間に、おやじから金を巻き上げようとする兄妹がなんだかナイスコンビネーション。
なもんだから、殺されたレスコーにすがるマノン、迫力ありました。
マノンは兄ちゃんが大好きだったのかなぁなんて、思っちゃいましたね。
昔は仲の良い兄弟だったのかも…。

福岡デ・グリューは、2幕までは「こんなもんかなぁ~」って感じっだったのですよね、正直なとこ。
彼は体格がしっかりしてて、繊細というより、体育会系の雰囲気があって、なんというか、変な言い方ですが、王子というより戦士系?(←RPG的に)

でも3幕で原題の「騎士デ・グリュー」らしい、騎士(ナイト)っぷりが大炸裂。
それまで何もできずに、ただじっと熱い思いを抑え込んでいた溜めが大爆発したって感じでしょうか。

大事そうに、慈しむように、本当にとうとう手にした宝物のようにマノンの肩を抱く波止場の福岡デ・グリュー。
ここからもうもう目頭が熱くなりましたわ。
つい看守を手に掛けてしまい「ああああぁぁぁぁ~っ!」と頭を抱える潔癖さも、これが福岡デ・グリューなんだなぁと。
その熱さと潔癖さが最高潮のままに、沼地へ繋がる。
沼地のパドドゥは本当に締め付けられるような切ない思いがひしひしと伝わって来ましたよ。
またあの大技を大技と思わせない、なめらかさは本当に見事でしたし、ラストシーンはもう、哀れで切なくて…。
あああ、やっぱりデ・グリュー、マノンを失ったルイジアナで、あのあとどうなってしまったんだろう…(爆涙)

娼館のお客にマイレンや厚地さんがいるってのがなんとも豪華過ぎですが、マイレンがまた好色なエロおやじで、つい目がいってしまう(笑)
この人はどんな踊りでもどんな役でも、本当に全力投球で、濃ゆくていいなぁ!
舞台上のマイレンを見るのは、本当に楽しいです。
若い3人のお客の真ん中で踊ってる人も、名前はわからないのですが、なんか今回すごく目を引かれたなぁ。
誰かしら。

今回はまた舞台の後ろの方で踊ってる民衆(笑)の方々も結構注意して観てたのですが、乞食リーダーの八幡君にレスコーが何かとお金を撒いてるんですね。
きっとマノンとデ・グリューの駆け落ち先を捜し当てたのは、あの乞食のリーダーだったに違いない、と思ったりもしましたわ。

とにかく、いろいろ濃かった新国の「マノン」。
今日、会場に行ったら、昇格情報が出てまして、福岡さん、八幡さんがプリンシパルに、厚地さん、菅野さん、福田さん、米沢唯ちゃんがファースト・ソリストに昇格だそうで。
おめでとうございます。
今日の「マノン」で今シーズンの新国の上演も終了ですが、また来シーズンが楽しみです。
ビントレーさん、続けてくれればよかったのになぁ…。

by kababon_s | 2012-07-02 01:09 | 新国立劇場バレエ