バレエ「くるみ割り人形」:原作ってデュマでありホフマンであり

知りませんでしたー。
あのクリスマス・バレエの「くるみ割り人形」の原作がアレクサンドル・デュマだったなんて。
しかも父子合作、「三銃士」&「椿姫」ですよ。
「知らなかったのかよー」と言われそうですが、でもマジ驚いた。

ってか、「くるみ割り…」は結構バレエ関係でいろいろサイト見ているはずなのだが、なんで今まで気づかなかったかなー(-_-;)
それにしても、デュマと「くるみ割り人形」なんて、なんつーミスマッチだろう。

いや、正確に言えば、確かに「本当の原作」は、間違いなくドイツの作家、ホフマンなんです。
「コッペリア」の原作「砂男」、オペラ「ホフマン物語」と同じ、E.T.A.ホフマンです。

デュマ父子の「くるみ割り人形」は、いわばホフマンの「改訂版」。
分類上、デュマ父の作品となっているようですが、実際は父子の合作というか共作らしい。

このほど入手して読んだ「『くるみ割り人形』デュマ作/小倉重夫訳(東京音楽社刊)」の後書きによると、最初にデュマ息子がホフマンの「くるみ…」のフランス語訳に取り組んでいたところに、父ちゃんがいろいろと手を加えたようで(苦笑)、結果、翻訳というよりは「改訂」になったとか。
「当時の知的著作権ってどうなってるんだ」とも思いますが、「ダルタニャン物語」を書き終え、大衆小説の王様として「モンテクリスト伯」執筆中のデュマ父、ホフマンの小難しい怪奇ファンタジーを易しく、読みやすいエンタメ作品に仕上げてしまったところ、こっちが広まったらしい。
そしてチャイコフスキー&振り付け家のプティパがバレエを作る際、フランス人のプティパがホフマンのものより流布していた、またフランス語で書かれているデュマの「改訂版・くるみ割り人形」をベースにしたのも何ら不思議はない、と。

実際、ホフマンの原作もデュマ改訂版も話の大筋はほとんど変わらないのですが、読み比べてみると、確かにデュマの方はそれぞれの登場人物の描写が細かく、またデュマらしく生き生きと描かれています。
さすが大衆小説の王様の面目躍如。
ホフマンの方はどっちかというと、お行儀が良い感じ、というのか。
特にデュマ版の、ネズミ達にブーダン・ノワールの材料を食べられて、しょんぼり落ち込む王様の下りは、食道楽…というより食い意地の張ったデュマらしいリアリティに溢れていて、笑っちゃいますわ。

また、バレエ化に当たって、原作の大きく削除された部分は「王子もといドロッセルマイヤーの甥が何故魔法をかけられ、くるみ割り人形になってしまったか」というところ。

どんな内容かを超簡単に説明すれば。

とある国の王様が大好物のブーダン・ノワール(血詰めのソーセージ)の材料をネズミに喰われて怒り、ネズミ達を虐殺してしまう。
それに怒ったネズミの女王が、王の娘なる姫に呪いをかける。
そのため姫はとてつもなく醜くなってしまい、王はドロッセルマイヤーに呪いを解く方法を探せと命じる。
ドロッセルマイヤーは方々を旅し、期限ギリギリになって、ようやく呪いを解くことができる青年が自分の甥であったということを知り、彼を伴い喜び勇んで城へ。

そして確かにドロッセルマイヤーの甥である青年は、王女に「堅いくるみ」を食べさせることで、呪いを解くことができ、姫は元の美しい姿に戻るのだが、今度はネズミの女王の呪いが青年に降りかかり、彼が醜いくるみ割り人形の姿になってしまう。
ところが王様と姫は、恩人であるはずのドロッセルマイヤーと醜くなった青年を「けがらわしい!」と、国外追放に。
甥は自身の呪いを解くにはネズミの女王の子孫である、ネズミの王と戦って倒さねばならず、またドロッセルマイヤーは、甥の呪いを解く「こんな姿でも愛してくれる、心やさしい娘」を探すのであった。

とまあ、ざっと言えばこんな感じですか。

さらにバレエと原作のもう一つの大きな違いは、結局マリーの勇気&愛情で、ネズミの王を倒して元の姿を取り戻したドロッセルマイヤーの甥とマリーが、現実世界で再会し結ばれる、というところです。

これはこれで、なかなか面白いと思いますよ。
それこそロマンチック・バレエの世界にはふさわしい、ファンタジックなハッピーエンドかと。
もちろん、プティパ&チャイコフスキーの「くるみ割り人形」も、それはそれでまとまった、素晴らしいものだと思います。
何より、原作では地続き感のある「とある国」を「おとぎの国」とすることで、世界がとても立体的な空間をもって広がっている。

またバレエでのネズミとの戦いは、「くるみ割り人形である王子(甥)自身の戦い」という意味合いが出てきますし、マリーでもクララでも、あの不格好なくるみ割り人形を何故か気に入って可愛がったのは、原作の「真実を見つけることのできる目を持つ」というテーマにも通じているかと思います。

まあとはいえ、「ブーダン・ノワールの材料をネズミに喰われて怒った王様がネズミを虐殺し、その因果が巡り巡った揚句、ドロッセルマイヤーの甥がとばっちりを受け、くるみ割り人形になってしまった」という顛末は、確かにバレエにはしづらかったかもしれないですが(笑)

いや、これはこれでギャグっぽくて面白いし(てかもはやギャグか(苦笑))、とんだとばっちり王子だと思いますし(^_^;)
でも解釈や演出の仕方次第では、原作踏襲の「くるみ割り人形」バレエがあってもいいかなぁ…とも思います。
切り方&演出によっては、オペラ座の「コッペリア」じゃないですが、ホフマン的な怪奇&異形テイストを含んだものにもなりそうだし、SFチックなものもできそうな。

いずれにせよ、バレエ、原作、それぞれの楽しみ方があるし、どちらもそれぞれに味わいがあると思います。

というわけで、今年の「くるみ…」の舞台は、「デュマ原作」という、ちょっと違った角度を加えて楽しめそうです。
因みに今年は新国立劇場バレエの厚地康夫王子一本釣り。
厚地さんは今年の夏の「オールニッポン・バレエ・ガラ」の「二羽の鳩」を観て以来、気に入ってしまった…というか、気になってしょうがないダンサーの一人です。
すらりとして、手足も長く表現も豊かで、華奢ですが、とても存在感があり、身のこなしもエレガント。
「アラジン」のルビーは色気があったし、「パゴダの王子」の宮廷官吏は凛としていて素敵だった(#^.^#)
「くるみ…」の王子は、彼の日本での王子デビューゆえ、これは必見なのであります♪
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by kababon_s | 2011-11-20 02:23 | Ballet